番外編・君と猫とサンルーム

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「それで飼うことに?」 「いや、思わず保護してしまったけどそんなつもりはなくて。ほら、やっぱり飲食店だし」  サンルームのお気に入りの席で昼寝をしているチャコを目を細めて眺めながら、手にしたカップの向こうから彼女が俺に聞いてくる。  里親を探すつもりだったと言えば、納得したように頷きながらも不本意そうだった。  本当に、チャコを気に入っているらしい。 「店で声かけて、欲しい人を探して。ここで何度かお見合いさせたんだけど、コイツは怖がるばっかりで」 「ああ……そうなんだ」  最初は人見知りもひどくて、物陰からも出てこられず怯えてばかりだった。  だんだんに人馴れしてきても、チャコが自分から寄ってくるのは俺とじいちゃん、ばあちゃんだけ。  今ではまるで看板猫のようになっているが、実は店といっても基本的にチャコは、家と店舗の間にあるこのサンルームのその席に、それもだいたい決まった時間にしかいない。 「あまりの懐かなさぶりに貰い手がつかなくて手を焼いていたら、佐野さんたちから『ここで飼ったらいいじゃない』って言われて」  昼の常連客は高齢の方が多い。曰く、昔は多くの飲食店で猫を飼っていたそうだ。  『ネズミを捕まえてくれるでしょう』と、懐かしそうにチャコを見る。いつ頃からか、駆除の方法は猫から薬剤に移り、衛生についての意識の変化も相まって飲食店から猫の姿は消えていったそうだ。 『強い薬を撒くよりよっぽど安全だと、私なんかは思うけど。まあ、でも、今の子たちはアレルギーとかもあるからねえ』  そう言って孫の話へと移っていく。  顔を見合わせた俺たちが保健所に問い合わせれば、厨房に入れるのはもちろん駄目だが、客席にいる分には規制は無いと言う話だった。  飼うとしても母屋に居させるつもりだが、何分にも古い家なので扉も建具も旧式だ。自分で入り込んでくる可能性は捨てきれない。  それでしばらく、里親探しと並行しながらスタッフと来店客に「猫がいる店」について聞いてきたが、予想外に好意的な意見が多かったのには驚いた。  そして先にほだされたのは常々「女の子がいたらいいのに」とぼやいていたばあちゃんだった……子猫は雌だったのだ。
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