1-21 恋なんて必要ない。

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1-21 恋なんて必要ない。

「誰が、こんなことを!」 「殿下、落ち着いてください!」  騒がしい。  うっすらと目を開けると、アンとカラン様が言い争っているのが見えた。  どうして言い合いなんて……。  その訳が知りたく目をしっかり開けようとするが、睡魔が邪魔して思い通りに動かない。   「奴等を絶対に生かしておけない。ナイゼル!奴らを追うぞ」 「それには反対です」 「なら、僕だけでいく!」 「殿下。第二王子として赴くのであれば、私が力を貸しましょう」 「……わかった。ファーエン王国第二王子としてあなたの力を借りたい」 「畏まりました」 「殿下。俺、私もお供してもよろしいでしょうか?」 「勿論だ。こんな時にあなたと争ってもしょうがない。行くぞ」 「はい」  なんだ?  どういうことだ?  頭がぼんやりしていて使い物にならない。彼らの言葉を整理しようとするが、靄がかかったようで、考えがまとまらなかった。  そんなことよりも、このまま眠ってしまいたい。  体は欲求に正直で、私はそのうち深い眠りに落ちていた。 次に目が覚めたとき、傍にいたのはテランス殿で、瞳が今日はオレンジ色だと思わず魅入ってしまった。  多分光の入り方だと思うが、この人の瞳はとても綺麗だった。 「気分がどうだ?」 「あ、悪くはないです」  背中は痛むが、吐き気などもない。長く寝たせいか、少しだるいくらいだった。  というか、この人はずっと付き添っていてくれたのだろうか? 「えっと私はどれくらい寝てましたか?」    悪いと思いながらも、私は自分が休んでいた時間が気になり、先にそれを問う。 「まる一日だ」 「まる一日!その間、もしかして、テランス殿はずっといらしたんですか?」  驚きのあまり、私はベッドから体を起こす。すると背中に痛みが走り、反射的に唇を噛んでしまった。 「大丈夫か?無理はするな。俺は、あなたにずっと付き添っていたわけではない。本当なら付き添っていたかったが、それよりも傭兵達を捕まえるのが先だと思い、傭兵討伐に向かった」    そういえば、そんな話を夢うつつで聞いたような気がする。  いや、夢か?  アンが殿下とか、第二王子とか呼ばれていたし。   「テランス殿。アンは大丈夫ですか?」 「アン……。もう話してもいいな。あの方は、第二王子アンライゼ殿下だ。傭兵討伐の指揮を取った後、王都に戻られた」 「王子?!アンが!」  優しく、女性的。時折子どもぽい彼が王子なんて、信じられない。確かに、王子だとすれば、カラン様への態度とか、カラン様がなぜ長期にわたって彼の傍にいたか、理解できるけど。  しっかし、二年の間、普通に役者として劇団で働いていたぞ。  あいつは。  記憶がなかったからか?  それでもおかしい。  首をひねっている私に、テランス殿が微笑んだ。  彼の笑顔はとても自然で、釣られて私も微笑んでしまう。だけど、やせ細ったミラナの顔、自害したヴィアニの死に顔を思い出し、すぐに表情を元に戻した。 「どうした?」 「いえ、なんでも。アン、いえ、アンライゼ殿下に別れの言葉を伝えることもなく、申し訳ありません」  別れ、王子なのだから、王都に帰るのは普通だ。むしろ二年もここにいて、しかも役者をしていたことがおかしいのだから。  それでも妙な喪失感を覚える。 「アンライゼ殿下も、あなたが目覚めるまではラスタに滞在したいとごねったようだが、無理だったようだ。寂しいか?」 「……ええ」    たった二年だったが彼は友人だった。まあ、どちらかというと弟のようだったな。いつも甘えてきて……。  あの告白……。彼はなぜ伝えたのだろう。  本気だった、はずだ。様子がいつもと違っていたし。 「ネスマン様?」 「あ、テランス殿。すみません」    目の前にいるというのに、一人で考え事をしており、妙な間を作ってしまった。そういえば、時間は大丈夫なのだろうか? 「テランス殿。私はもう大丈夫です。お仕事に戻られたらいかかですか?」    彼は制服姿で、どうみても勤務途中のようだった。私の様子を見に来てくれたのだろうと申し訳なくなる。 「仕事は大丈夫だ。それよりも、アンライゼ殿下のように、俺をあなたの友人にしてくれないだろうか?」  彼は私を食い入るように見つめていた。  瞳は赤色を帯びていて情熱的だった。 「いや、あの。殿下が王都に戻って寂しいと思うので、俺が代わりに」  戸惑う私に、テランス殿がそう付け加えた。 「大丈夫ですよ。ご心配なく。確かに少し寂しいですけど、仲間がいますから」  そう私には仲間がいる。  男の友人はもう作らない。  ミラナを心配させてくないし、変な誤解をされたくもない。  恋愛ごっことヴィニアは言っていた。  人によっては、そう見えていたのだな。  私にはそんなもの必要ない。 「そうか……。まあ、何かあったら頼ってくれ」    テランス殿の寂しげに笑う。  申し訳ないが、まあ。私と友人になっても彼が特になると思わないので大丈夫だろう。私ももう警備兵団に迷惑をかけるようなこともないと思うし。  というか気をつける。  今後は、本当、誤解されないにする。  ミラナを苦しめたくないし、私を騎士と思ってくれている女性を傷つけたくない。  何か言いたげだったが、テランス殿は部屋を出て行き、入れ替わるようにファリエス様がいらした。 「目覚めてよかったわ!本当、ナイゼルから聞いたときは、私も傭兵の討伐に加わろうと思ったくらいだったわ!」  やりかねないな。  でもそれだけ心配してもらっていたと思うと、胸が熱くなる。 「アンライゼ殿下。まあ、アンを最初見たときにどこかで見た顔だなあと思ったけど、まさか事故死した王子が生きているとも思わなくて。しかも役者になんかに平気になっちゃってたし。本当、街でも普通に溶け込んでいたわよね。殿下」 「そう、そうですね」  そうか。アンライゼ殿下は事故死という扱いになっていたのか。  それでは、二年前に誰かが故意に彼を陥れたのか。崖の下で発見したけれど怪我したのは落下のせいじゃなかったかもしれない。記憶がない、いうのも結局嘘か……。 「殿下は、王都に立つ前に、カサンドラ城で起きた事は自分には関係ない。しかし、この件でミラナを陥れる者がいたら、王子の名で裁くと通達したそうよ」 「アン……、殿下がそんなことを」  彼が王子であれば、ミラナの身柄はただではすまない。王都に連れて行かれて裁判にかけられてもおかしくないくらいだ。  でも、 「お礼くらい、言いたかったです」 「そうよね。ほーんと。まあ、ナイゼル曰く、傭兵討伐の際に王子の名を使い、しかも黒幕が側室の方とかで。王城が凄い混乱しているみたい。トマスも呼び出されて大変よ。だから、殿下も緊急に帰ざるえなかったらしいけど」    そこまで言って、ファリエス様がじっと私を凝視していた。 「なん、でしょうか?」 「寂しい?」 「ええ」 「それだけ?」 「……ええ」  恋愛のことか。  考えたくない。恋なんて知らないし、一生無縁でいたいと思っている。 「ジュネ。エリーからも話を聞いたわ。みんなに好かれることはできないのよ。百人いたら百人、考えが違うでしょ?四角に見えているものが、他の人からは丸く見えることもあるのよ」 「わかってます」 「だったら、気にしないこと。たまには自分の気持ちに正直になることも大事よ。あなたは十分頑張ってるし、恋とかしても批難する権利は誰にもないわ」 「……ファリエス様。私は一生恋愛とは無縁に生きるつもりです。だから、その件は簡便してもらえますか。私は、もう誰にも落胆されたくないのです」 「ジュネ……」  少し責めるようにファリエス様に睨まれた。やはり彼女の眼力は強く、負けそうになる  でも私は決めたんだ。 「ファリエス様。お願いします」 「……もう頑固ね。いいわ。まだ人生これからだし」 「ファリエス様!」 「はいはい。もう言わないから」  苦笑されてしまったが、私は本当にそう決めたので、話題にしてほしくもなかった。  そうして、ファリエス様が帰られた後、メリアンヌとカリナが揃ってやってきた。  おいおいと泣かれてしまい、医師からも許可を貰ったので、私は城主のシラベル様が用意してくださった馬車で城に戻ることになった。
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