2.彼女は大事な存在

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「でも稲橋さんは遊びのつもりで誘ったんじゃないぞ」  たぶんだけど。 『どっちにしても最初から断るつもりだったの。でも稲橋さんが最後にどうしても直接会って気持ちを伝えたいって言うものだから、今日の夜に会う約束をしていたんだけど。あんなことを聞いちゃったものだから、会いにいくのが怖くなっちゃって……』  気持ちを伝えたいか……。そこはなんとなく共感できる。俺も昔、最後にどうしても伝えたくて告白したことがあるから。でも、たとえ男同士の会話を盛りあげるためだとしても、「ラブホに連れ込んでやる」なんてことを口にしている時点で男として失格だ。 「俺が悪かったんだ。いくら稲橋さんに頼まれたからといって、仲を取り持つべきじゃなかった。嫌な思いをさせたよな」 『でもうれしいこともあったよ。冬馬くんがわたしのためにあんなふうに言ってくれたから。ありがとう』  俺は心のどこかで、ほっとしていた。ずっと誰ともつき合わなかった輝が稲橋さんとつき合うなんてことになったら、それはかなり本気ということだと思うから。もしそうなっていたら、なんかさみしい。いや、違うな。激しく後悔するような気がした。
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