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なぜか冬馬くんが爆弾発言をする。でも気を利かせてくれありがたかった。あれからずっとフリーであることは絶対に知られたくないので、彼氏のフリをしてもらえると助かる。意地もあるし、わたしの気持ちが佐野先生たちに気づかれてしまいそうで怖かった。
「格好いい彼氏を見つけたな」
佐野先生はにっこりと笑みを浮かべ、安心したような顔をしていた。
わたしはうまく笑顔を作ることができなかった。
「ちゃんと幸せになりましたよ」
悲しい強がり。自分を惨めに感じた。
「そうだな。輝なら大丈夫とは思ってたけど」
大丈夫か……。いったい、その根拠はどこにあったんだろう。こんな嘘をついて、ちっとも大丈夫じゃないよ。わたしが手に入れたかった未来を見せつけられて、心のなかはどす黒く染まって、「おめでとう」の言葉も言えない。
「じゃあ、俺たちはレストランに予約を入れてあるのでこれで。そろそろ時間だよな、輝?」
「……あ、うん」
そんな予約は入れていない。冬馬くんのついた嘘にまた救われた。
それから冬馬くんが佐野先生たちに丁寧にあいさつをしてくれた。わたしは、「失礼します」と言うだけで精いっぱい。「行こう」と冬馬くんがわたしの手を引っ張ってくれて、なんとか歩き出すことができた。
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