7.いつもと違う彼のキス

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 バーのカウンター席でリキュールベースのカクテルを頼んだ。スプモーニ。なんとなく聞いたことのあるカクテルだった。  わたしはいまドキドキしながらサイジさんを待っている。こんな場所にひとりきり。なにをしていいのかわからなくて間が持たず、そろそろ限界だった。そこへサイジさんの声。 「待たせてごめん。来る途中でマネージャーから電話が入っちゃって」 「いえいえ。わたしも先に飲んじゃってましたから」  サイジさんに会えてようやく落ち着くことができた。さっき会ったときと同じ黒いジャケットのサイジさんは、近くで見るとやっぱり少しほっそりとしたような気がする。 「ウイスキー、いつものをシングルで」  サイジさんはバーテンダーに慣れたように注文した。  いまも宿泊中だというし、きっとこのバーにも何度も来ているのかな。ファミレスのビールで乾杯していたあの頃とは違うんだと改めて時の流れを感じた。 「それにしても今日は驚いたね。あの場所であんなタイミングなんて。俺はここのホテルは仕事でもたまに使うけど」 「うちの会社もここのホテルはわりと使っているみたいです。新年会もここでやりましたよ」 「じゃあ、この店も来たことある?」 「いいえ、ホテルのバーなんて初めてです。いつも安い居酒屋ですよ。だからドキドキしてます」  正直に話したら、サイジさんがやさしそうに微笑んだ。 「輝ちゃんは、変わらないなあ」 「そうかもしれません。いまだに地味な生活です。毎日、会社と家との往復ですよ」 「でも彼氏はいるんでしょう?」 「いいえ。残念ながら」 「さっき一緒にいた同期の人は違うの?」 「あの人は彼氏ではないんです。仲はいいんですけど」 「そうなんだ。もしかして? なんて思ったからさ。誘って悪かったかなってちょっと思ってた」  ようやく佐野先生を吹っ切れたのに、新しい恋でも苦戦中だと知ったらサイジさんはどう思うかな。おかしいと笑うかな。
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