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「サイジさんはたくさんの女の人と噂になっていましたよね?」
ほんの軽い気持ちだった。でもサイジさんの顔を見て言わなきゃよかったと後悔する。途端に微笑みが消え、無表情のその顔には感情がまるでないように思える。
「モデルの子は売名だよ。その前の女子アナは女のほうの遊び。で、この間の女優はイメージダウンになるからって事務所に別れさせられた」
売名、遊び、事務所の介入。お決まりの芸能人の恋をサイジさんの口から聞くとは思わなかった。
「引いちゃった?」
「いいえ……」
なんて言ったらいいのか。一応サイジさんなりに本気の恋だったのだろうか。だったらひどい話だと思う。サイジさんは本来ピュアでまっすぐな人なのに。そんな人を振りまわした女の人たちに嫌悪感を抱いてしまう。
「噂になった人たちのことなんて、さっさと忘れちゃってください。わたし、あの女子アナと女優の出ているテレビは絶対見ません。それから、そのモデルが載っているファッション誌も買いません!」
「ありがとう。なかなか頼もしい言葉だね」
「それくらいしかできなくて申し訳ないくらいです」
「でも別にいいんだよ。俺も所詮遊びだったし」
「ええっ!? 遊びだったんですか!?」
「シーッ! 輝ちゃん、声が大きい」
「ごめんなさいっ」
慌てて店内を見まわすと、じろじろとこちらを見ている人が何人かいた。ひそひそ話をしているカップルもいる。
サイジさんはベース担当なので、本来ボーカルのナリほど注目されていなかった。だけど女子アナや女優さんとの噂のせいで、世間に顔が知られていた。
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