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「バレちゃったね」
「すみません。わたしのせいで」
「大丈夫。とりあえず出ようか」
「はい」
仕方なくバーを出ることにした。エレベーターホールでも謝ったけれど、サイジさんは「気にしなくていいよ」と明るく言って、わたしの気持ちを軽くしようとしてくれた。
エレベーターが到着し、どこに行くんだろうと思っていると、サイジさんは客室フロアの階のボタンを押した。
「俺の部屋に来ない?」
「え?」
「変な意味じゃないよ。俺、写真週刊誌に狙われているから、外に行くと写真を撮られちゃうかもしれない。輝ちゃんを巻き込みたくないんだ」
事情は理解できるけど。うーん、部屋にふたりきりというのはどうなんだろう。
でもサイジさんなら大丈夫だよね。昔からの知り合いだし、いまさらどうなるものでもないだろう。そう思い直し、サイジさんのあとをついていった。
部屋に入るとマンションの一室みたいにリビングがあって、L字型のソファとローテーブルがあった。ベッドルームは奥のドアの向こうにあるらしい。
「座って。とりあえずビールでいいかな?」
「はい」
少し緊張しながらソファに腰をおろすと、サイジさんは冷蔵庫から缶ビールをふたつ持ってきて、わたしの隣ではなく斜め向かい側に座る。乾杯をすると、缶のままごくごくとビールを飲んだ。
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