519人が本棚に入れています
本棚に追加
「あのふたりは新しい人生を歩んでいるんです。だからサイジさんも実紅さんのことを吹っ切らないといけないと思います」
「俺は別に実紅のことなんて、もう好きでもなんでもないよ。さすがにないよ。もう四年だよ?」
「じゃあ、どうして遊びで女の人とつき合うんですか?」
「輝ちゃんはどうしようもなく人肌が恋しくなるときってない?」
「ええ、まあ」
わたしのその恋しさは冬馬くんが埋めてくれた。
「そのときに、たまたま女の子がそばにいた。だから利用した。でも女の子だって俺を利用してる。みんな有名人の肩書き目あてで近づいてくるんだよ。別に相手は俺じゃなくたっていいんだよ」
「芸能界のことはよくわかりませんけど。サイジさんは素敵な人です。肩書きで近づいてくる人ばかりじゃないと思います」
「そうかな? でも最近よく思うんだ。俺自身にはなんの魅力もないんだって。たとえばうちのバンドだってそうだよ。バンドから俺がいなくなっても大丈夫だけど、ナリが抜けたらそこで終わりだ。俺たちのバンドがここまでこられたのはナリの実力とビジュアル、あとカリスマ性のおかげだよ。俺の存在は無意味。……たぶん俺じゃだめなんだよ」
華々しくデビューし、順風満帆にここまできたと思っていたけれど、思った以上にサイジさんの闇は深い。
「だから輝ちゃん──」
サイジさんをここまで変えてしまった責任をどうとればいいのだろう。
「──俺をなぐさめてよ」
すぐ隣にサイジさんがいる。ここがふたりきりの密室だということを改めて意識した。
最初のコメントを投稿しよう!