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「いまのサイジさんはどうかしています」
「そうかもしれない。でも俺がこんなふうになったのは、輝ちゃんにも責任があるんだよ」
「サイジさん……」
嘘……。サイジさんにこんな冷酷な一面があったなんて。
「俺は二番目でもかまわなかったんだ。なのに輝ちゃんが実紅をけしかけるから悪いんだよ」
「サイジさん!」
急にサイジさんが覆いかぶさってきて、ソファに倒れ込んでしまった。力ずくで押さえられ、身動きできない。
冬馬くん!
心のなかで叫んだ。
「軽く考えてくれていいよ。こういうことって、案外みんなやってることなんだから」
「わたしはできません! 軽い気持ちでなんて……」
「軽くないならいいの? なら俺たち、つき合ってみる?」
「えっ──」
絶句した。わたしを好きでもないのに、なんでそんなことが言えるんだろう。
身体だけの関係というのは否定しないけど、わたしの場合、相手が冬馬くんだったから。
あの日……。佐野先生たちと偶然に再会し、家族となった幸せの象徴に心が砕けそうだった。置いていかれたままのわたし。時間が解決すると心のどこかで思っていた。だけどそうではなかった。それを知り、わたしはこの先どうやって生きていけばいいのかわからなくなって、冬馬くんに救いを求めた。その結果、男女の関係になったわけだけど。遊び慣れている冬馬くんだから、わたしのこともその女の子たちとひとくくりにするんだと思った。
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