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輝が香水の匂いを気にしていた。やきもちを焼かれているみたいでうれしかった。
それにしても今日の女はしつこかったな。香水のにおいを強烈に放ちながら俺にまとわりついてくる。少し前の俺だったら適当に相手をしていたんだろうけど、いまは違う。
俺を変えたのは、輝、おまえだよ。眠っているときに、うしろから抱きしめる癖がついたのはおまえのせいだよ。せめて眠っている間だけは、ひとり占めしたいんだ。
◇◇◇
輝にはずっと忘れられない男がいることは、けっこう前に本人から聞いていた。
そして半年前。偶然、輝のスマホの待ち受けを見た。そこに写っていた男、そいつが輝の好きな男だとすぐにわかった。
俺たちよりもずっと年上の男だった。周辺には緑があって、「このとき虹がすごくきれいだったんだ」と輝は懐かしそうに言った。
「そいつが例の男か」
「うん、昔好きだった人」
「『だった』じゃなくて、いまも好きな男だろう。それにしてもイケメンだな」
「性格もいいんだよ。とにかくやさしくてお人好し」
「やさしい? 結局、輝を捨てた男だろう? どこがやさしいんだよ?」
「でもやさしかったの! 絶対に幸せになれって、最後に言ってくれたんだ」
好きな人の心のなかに別の誰かがいるというつらさ。俺にも似たような経験があったから輝の気持ちはよくわかる。
でも俺は仕方ないとして。どうして輝みたいな女を切り捨てるかな。こんないい女、めったにいない。
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