出会い

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出会い

 今朝は今年一番の冷え込みだった。  (かじか)む手足を温めながらお湯を沸かしていった。  既に陸奥(むつ)家の旦那様は連日のように、県中央の軍部に赴き会議にいそしんでいる。  給仕や執事の人の話では、海峡に複数の国の軍艦が現れては消えてを繰り返しているらしく、日増しに緊張が増していった。  今だ戦争の傷跡が言えない今日(こんにち)に、私はこうしてお仕事をいただけ、恩返しができている。    旦那様のお話しでは近々にご子息が海外の東南地方から戻られてくるとお聞きしている。  会うのは五年ぶりで、当時の私は幼く、よき兄のような存在だった。  先月十八になったばかりで、確かご子息はわたしよりも八つ上だと記憶している。    久しぶりにお会いできるのを楽しみに、今日もお仕事に励もうとしていると、執事の森岡(もりおか)さんが私に声をかけてきた。  「西舘(にしだて) (みつ) はいるか?」  「はぁい! ここに」  「おぉ、そこか、急で申し訳ないが私を含め給仕全員で旦那様が主催する催しに行かねばならなくなった。 しかし、さすがに屋敷を留守にするには心配だ、蜜に留守を任せたいが頼めるか?」  たまに急な催しが開かれ、それに駆り出された経験がある。  あのときはかなり忙しく、私は足手まといになり、結局最後に今後は私が成長するまで控えさせてくださいと頭を下げたほどだった。  皆は優しく「大丈夫だよ」と声をかけてくれたが、さすがにいたたまれず、今回は森岡さんに気を使っていただき、残るように配慮してくれた。  「はい、お留守を預からせていただきます」  丁寧に頭を下げると、森岡さんは笑顔で「頼むよ」と言うと、準備に戻られた。    
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