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急いで私の御握りを作り終えると、彼が待っている玄関に行く。
「お待たせいたしました。 それでは行きますか?」
外をぼんやりと眺めていた信枚様は、ゆっくりと振り返ると少し驚きの表情を浮かべた。
「えっと…、 もしかして、その格好でいくつもり?」
その格好と言うと、私は今一度自分の身なりを確認してみた。
一応汚れたので洗濯したての給仕服を選んだつもりだったが、まだどこか汚れているのだろうかと心配になってしまった。
「いや、その服以外もってないのかな?」
「はい、以前は持っておりましたが、今は特に着ることもないので、こちらの服と寝るときようのが数点あるだけです」
少しガッカリしたように肩を落とす信枚様、もしかすると私は彼を落胆させてしまったのだろうか?
「いや、そうだよね。 その服もとても似合っているよ。 でも、それだけだと寒いからこれを着な」
失敗してしまったのかと内心焦っていた私に、彼は自分が来ていたコートを羽織らせてくれる。
大きく、私の体はすっぽりと収まる。
それに、独特の香りがした。 何とも言えない、外の香りとお屋敷の香りが混ざったような感じだ。
「よろしいのですか? 信枚様のはお寒くは?」
「僕はいいよ、慣れているから、そんなことより行こうか」
私に左手を差し伸べてエスコートしてくださる。
遠慮気味に握り返すと、空いている手で帽子をなおしながら笑顔になってくれた。
外に停めてある車に乗り込むと、波止場を目指して走り出した。
周りでは戦争反対派の民衆が何かを叫んでいる。
「誰も戦争なんてしたくないよ」
ぼそりと、呟きながら横目で周囲を観察している。
叫ぶ彼らを見つめながら、ゆっくりと人に触れないように道を進んでいった。
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