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あるとき、魚はいつものように銀を一粒食べたあと、人の形に姿を変えて見せた。
艶やかな白銀のような肌色に波打つ長い銀の髪。魚の時の輝きを思わせる目の霞むような姿だ。そして泉の縁に腰掛け、エスタを手招きした。
「エスタ見て下さい。なんとか人の姿に代われるほど回復しました。残るは尾だけです」
「凄い。君、人の姿になれるんだね」
そう言った瞬間、エスタは頭の中で光が爆ぜたような気がした。なにか大事なことを忘れているような気がする――。思い出しかけたが、すぐに白く靄がかかり、分からなくなってしまった。
「あと、五粒の銀を頂いたらお別れです。尾さえ回復すれば……」
魚がそう言って水から足を上げると、足先の部分は黒い溶けた海草かなにかの様な、ドロドロしたものが水の中に長く垂れ下がっていた。
「これがきちんと足になった時、貴方に最初に叶えて頂いた願い――、お借りたものをお返しします」
さっき思い出しかけた事は、この事だったかもしれない。
三つの願い事のうち、最初にエスタも知らぬうちに叶えてやっていたというものの話。
『あと一つ、これはもう叶えて頂きました。貴方、私の話を聞いてくれてありがとう』
はじめて会ったとき、そう言ったアピアの様子で話しを聞いた事自体がひとつの願いだったのかと思っていた。
しかし、今、“返す” と言った。魚のその言葉に、ますます何だったかと記憶を辿るがエスタにはさっぱりわからない。聞いてみようにも、なぜか魚に会うとその質問をすることをいつも忘れてしまう。ずっと聞けずじまいだ。
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