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いよいよ最後の日がやってきた。
一年と一か月かけて、エスタは魚に九十九粒の銀を届けることができた。それは、エスタが銀を貰うのに要した時間だ。
最初の耳飾りと併せると百粒の銀の欠片を食べた魚は、全身をすっかり銀の鱗に覆われ、不気味な黒い魚の面影は欠片もない。魚はエスタが最初に想像した以上の美しさだ。
「アピア、とても綺麗だ――。良かった」
喜びのあまり何度も何度も跳ねて見せる魚は、目一杯、陽の光を浴びて全身を輝かせていた。銀色の鱗一枚一枚がそれぞれ輝きを放ち、輪郭がかすむほどにまばゆく、それはそれは見事な姿だ。
跳ねるときに飛び散る雫は、まるで魚の体から星がこぼれるようだ。空をそのまま映すほど透きとおった水面は昼の星空のごとく美しかった。
エスタは文字どおり胸がいっぱいになり、ただ黙って、嬉しそうに跳ねる銀の魚を見つめていた。
ひとしきり泳ぎ回ると、魚は人の姿に成り岸に上がってきた。
「エスタ! ありがとう。すっかり元の通りです」
魚はエスタの手をとり、その手に手を重ねた。
「質の良い銀をくれたおかげで、前より硬く丈夫な体になりました」
「良かったよ、アピア。本当に」
濡れた長い銀色の髪が、顔を覆っていて表情はよく見えない。だが魚の口元の綻びを見ればその喜びが分かる。
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