銀鱗 ーぎんりんー

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 一般に言い伝えられている『銀鱗』の姿は、銀の鱗を持つ『人魚』だ。そして海に住むものだと言われている。『人魚』の中でも珍しいというだけで、誰もが知る『鳳凰』のように伝説級の〈異形の民〉という認識は誰にもない。  『銀鱗』も唯一無二の〈異形の民〉だと知るのは『研究者』や『狩る者』たちだけだろう。 「人魚ではないのですね」  ステラですら『人魚』の一種だと思っていた。アピアが銀の鱗に覆われていたとしても、これではエスタも予想だにできずとも無理もない。 「そのようだな。いや、俺も真実かは知らなんだ。聞くにつれそう思っただけだ。しかし、『銀鱗』が淡水魚とは、〈異形の民〉の研究者もびっくりだろう。まあ、鉱山から生まれるのに海にいるというのも、もともと矛盾していた話だな」 「なぜ、『銀鱗』だと?」 「そいつは銀の鱗をもつ魚だ。よって『銀鱗』。名は体を現すというじゃないか」 「根拠は無いのですね」 「無い」  ステラの問いにオズはハッと言い捨て、そして向きを変え、ゆらゆらと煙管でエスタを差す。 「それで? 何をくれてやる約束をしたのか思い出せそうか」  ステラはうつむき首を振るエスタの肩に手を置き、ポンポンとあやすようにたたいた。 「ここまでくるのでしょうか」 「来るかもしれないな。世にも珍しい『銀鱗』が拝めるぞ」 「冗談ではありません」  ステラは師匠の軽口を咎めた。 「『銀鱗』は凶暴という話です。……エスタの話では、凶暴とは程遠い感じですけど」 「〈異形の民〉は基本的に凶暴だ。凶暴というより実直なんだ」 〈異形の民〉は純粋なで嘘が無い。  嘘が無ければ良心も無い。人間のように体裁を着たり嘘を纏う必要のないぶん “()” を持たないのだ。  “()”が無く結論に至るゆえ、とても短気で凶暴にみえるのだ。
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