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エスタの約束
扉から聞こえてくる騒ぎをかき消すように耳鳴りがした。
そしてすぐさま、無音になったかと思うと耳元で声がする。
『エスタ。エスタ。どこに居るのですか?』
耳元、というより頭の中に響くのは、あの鈴の音のようなアピアの声だ。エスタの体が強張る。
「ア……アピア……?」
『私です。アピアです。アピアが来ましたよ。約束通り“目”を受け取りに来ましたよ』
「……目……?」
ブツブツとつぶやきながら耳を塞いでしゃがみ込む、エスタの異変に気付いたエストは兄の顔をのぞき込んだ。
「兄さん? 大丈夫」
「……来た。……アピアが来た! 目……目だったんだよ! 目を取に来たって……」
「目? アピア? 落ち着いて兄さん。来たって……『銀鱗』が来たの?」
「来た……」
エスタが顔を上げたその時、今しがた出て行ったばかりのステラが乱暴に扉を開けて中庭に飛び込んで来た。
「――何かが侵入しているようです。門も道場も破られました。……おそらく〈異形の民〉かと……」
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