エスタの約束

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「アピアとやら。その約束、異議がある」 『エスタ。初めて会った時の事を覚えていますか?』  師オズが話を割ったが、アピアは目もくれず話を続ける。やはり、話は通じないようだ。さすがのオズも額に汗が滲む。 『あなたの目と私のうつろな目を合わせることで、あなたと通じ合い地上の世界を見ることが出来たのです。方々(ほうぼう)見て回りましたがここにはあの方は居ないようだ。また旅に出なければなりません。だけど目玉を借りて外の世界を見ることが出来るのは水の中、魚の姿の時だけです。ああ。あなたが目を譲ってくれてよかった。目を貰わなければ再び無力な魚の姿で暗い地下水脈を辿り泉から泉へ渡り歩かねばならぬところでした』  ふと、気が反れたようにアピアゆらゆらと辺りに手を伸ばし始めた。皆、一歩下がり間合いを取る。するとアピアの長い爪の先が弟のエストの方向でぴたりと止まった。 『ああ!? そこに弟のエストがいるのですね。エスタと同じ波長……。ぁぁあああアアア! 早く見たいぃ! 目を! 早く目を下さいぃ』  泳ぐような動きで一瞬にしてアピアが目の前に立つ。弟のエストは初めて見る〈異形の民〉の恐ろしさに震えながら、どうにか口元を両手で塞ぎ叫び声を抑えた。
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