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魚は人を探して旅をしている最中だという。道中、行く手を阻むものがあらわれ、傷を負い、見てのとおりの姿になってしまったのだ、と。
そこで旅を続ける為、傷を癒すのに必要なものを自分に与えてほしいと言うのだ。
それが三つの願いのうちの一つ。
不憫ではあるがその不気味な姿がどうにも気になる。
再び、そんなエスタを察してか、また魚話し出した。
「貴方もこの姿が恐ろしいのですね。今まで何人もの方がこの泉を訪れましたが、皆逃げて行きます……。貴方がもし、その銀をひとつ、私に下さるなら、私の本当の姿を信じてもらえるでしょう」
気持ちを言い当てられてしまい居心地が悪いながらも、唐突に “銀” と言われてエスタには思い当たるものはない。
「銀?」
「ええ、その耳飾りをひとつ」
エスタは銀の耳飾りをしていた。ちいさな銀の輪が耳たぶに通してある。確かにこれは銀製品だ。品物としては決して特別なものではないが、いつも身に着け大切にしている。弟と揃いの耳飾りだ。
(そうか。これがあった)
エスタは戸惑いもなく耳飾りを片方外し、魚に言われたとおり泉にそっと落とした。
魚はそれをパクっと食べてしまうと水の中へ潜って行く。そしてすぐに再び水面に浮かび上がると勢いよく飛び跳ねた。
「ほら、見て下さい!」
黒い体の背の部分に一点の星のような輝きがある。
「これが私の鱗です!」
エスタによく見せるため、魚は何度も何度も飛び跳ねた。
「……きれい……」
それは陽の光を照り返して光る銀の鱗。たった一枚、とても小さなものなのに、こんなにも燦然とするものなのか。エスタはすっかり魅入られてしまった。
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