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この光輝く銀の鱗にすべて覆われたら、さぞや美しいのだろう――。
エスタは魚の本当の姿が見てみたくなった。
「私に九十九粒の銀を下さいませ。ほんの小さなものでよいのです。それが一つのお願いです」
おあつらえ向きだ。この国の貨幣は銀で出来ている。ひとつの大きさは米粒くらい。エスタも修行のうちの労働でそれほど多くはないが給金を貰うことがある。それをこの魚にあげられる。
「あともう一つ。私のことを他言しないでほしいのです」
エスタが他人に魚の話をすると、件の行く手を阻むものが言霊を読み取り、また追ってくるからだという。
「あともう一つ。これはもう、最初に叶えて頂きました。これが私の三つの願いです。貴方、私の話を聞いてくれてありがとう」
ふふふ、と魚が少し微笑んだ気がした。
「……毎日は来られないけど、これからあなたに銀を届けにくるよ」
エスタはそう約束をすると、もう片方の耳飾りを外し泉に落とそうとした。
「お待ちください。一度に一粒の銀しか頂けないのです。いくつ食べても一日に再生できる鱗は一枚だけ。それはとっておいて」
「そうか。それならなるべく日を空けず来ないとね」
心の優しいエスタはそう魚にそう告げた。
その時、後ろの茂みからエスタを呼ぶ声がした。弟のエストだ。泉に行ったきりなかなか戻らない兄を心配して様子を見にきたのだ。
魚はピシャッと一度跳ねて、泉の中へ消えていった。
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