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アピアが顔を上げると抗いようもなく目と目が合う。人の姿の時はいつもその長い銀の髪に隠れていたので、人の姿のアピアの目を見るのは初めてだ。
アピアの目は円く白く濁った、最初に見た鱗の無い黒い魚の目そのもの。銀を食べた魚は黒くみずみずしい瞳になっていたのに。体はすっかり元通りだと言っていたのに。
何故だろう――。不思議に思ったエスタはその目に吸い込まれるようにアピアへと顔を寄せていった。
「エスタ! 目を合わせるな!」
オズの声ではっと我に返ったエスタはぎゅっと目をつむる。しかし、瞼の裏には白くポッカリと空いた穴のような視線が真っすぐにエスタを射抜いたままだった。
『外の世界を探るため、あなたの目玉に意識を繋げお借りしていましたが、コレをくれるとは有り難い。これで私は人の姿のままでも世界を見ることが出来る。人の姿であるほうが旅も捗るというもの。早く、早くあの方に辿り着ける!!』
悦びに身をよじらせるさまは、その異様さだけでその場にいるものを怯ませた。
「これが『銀鱗』なのか」
「……ちっとも魚じゃねえじゃねえか。なあ、ステラ」
白い穴のような目で、エスタに微笑みを向けるアピアはまるでまさに魔物。だがその鈴の音のように響く声色には強制的な圧力があり、居合わせた者はきっと何かしらの魔術にかかってしまったのだろう。
そうでなければ説明がつかないほど、異形のアピアに魅入られていた。
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