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ん?
殺気を感じて振り返る。離れた場所から別の男がナイフを投げようとしていた。
慌ててフロアを転がる。直前に頬の横をナイフが掠めていったのを感じる。
見ると、男は更に両手にナイフを持ち、狙いを定めている。
鷹西は慌てて側にあった椅子や机を引き寄せる。
「ヘイ、カモーンッ!」
男が大きな声で言った。引き攣った笑い。獣のような表情だ。どうやら密輸組織の一員らしい。Tシャツの袖をまくり上げていて、逞しい上半身が際立っている。そして、両腕にタトゥー。
こいつ、今までのヤツらとは違うな……。
表情を険しくする鷹西。
少なくとも何人か切り刻んできた経験がありそうだ。冷徹な目つきからは、殺意がありありと見える。
だが、臆していて後れをとるとますます不利になる。鷹西はスックと立ち上がる。椅子を持ち、両手でかざす。ナイフを防ぐだけではない。隙を見てそのまま突っ込んでやろうと狙っていた。
男がナイフを投げようと構えるが、鷹西の様子を見て動きを止めた。
「チッ」タトゥー男が舌打ちする。「クレイジーッ」
「お互い様だろ」と応える鷹西。
タトゥーの男はふっと笑うと、両手のナイフをしまう。そして、腰に手をまわし、スッと何かを差し出した。
微かに窓から入ってくる月明かりを受けたそれは、鈍い光を放つ。
刃渡り20センチほどの大きなシースナイフだった。その切っ先をいったん鷹西に向けると、軽く腰をかがめ、攻撃の構えをとった。
どうするか一瞬迷う鷹西。タトゥー男はその僅かな逡巡を見逃さなかった。椅子の脚の合間から見える鷹西の顔めがけ、ナイフを突き出す。
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