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LAST SCENE
大学周辺は、警察、消防、そしてマスコミが入り乱れ、騒然としていた。パトカーに乗せられて行く奥田を、いくつものカメラが追っている。不遜な態度は影を潜め、小さく丸まった背は実年齢以上の老いを感じさせていた。
彼がこの騒動についてどう言及するのか気になるところだが、おそらく真実が明らかになるまで、かなりの時間を要するだろう。
機動隊員達に促され、瀬尾が救急車に向かっていく。夏美は鷹西や三ツ谷とともに、その姿を眺めていた。
機動隊員の一人、石内と名乗った男が、瀬尾に向かって涙を浮かべながら敬礼していた。
「瀬尾さん」鷹西が声をかけた。「気障男っていうおっさんがいるんですよ」
振り向き「気障男?」と怪訝な顔になる瀬尾。
「本牧ふ頭の倉庫街で、あなたのことを見ていたそうです」
夏美が補足した。
「ああ、あの人か……」
思い当たったようだ。
「そのおっさんが言うんですよ」と続ける鷹西。「瀬尾さんがとても悲しそうだったって。心配もしていました。そして、辛いことや悲しいことがあっても、時間とともに想い出になるはずだ、とも言っていた。そう考えた方がいいって……。俺には瀬尾さんが背負った悲しみについて軽々しく何かを言うことはできない。でも、おっさんみたいな考え方もあるんだって、頭の片隅にでも置いておいてください」
瀬尾はふっと笑みを浮かべた。そして「ありがとう。気障男さんとやらに、礼を言っておいてくれないか」
鷹西は大きく頷いた。
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