SCENE1 廃校舎④

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 その時夏美は、頭の中で昔聞いた声を思い出していた。  落ちついて、状況を冷静に把握すれば、どんな時でも必ず切り抜けることはできる――。  それは、子供の頃から師事してきた合気道師範の言葉だった。  しっかりしろ、夏美。しっかりしなきゃダメだ。  恐怖と戦いながら、彼女は視線を巡らせる。  先ほど落とされてしまった自分の警棒が、少し離れた場所にある。そこまで、おそらく2メートルちょっと。  男達の武器は銃一丁。もう一人は、おそらく持っていてもナイフだろう。  自分のダメージは、今はだいぶ回復してきた。これなら、動ける……。  そうだ。私は、今までだって何度もピンチを切り抜けてきたんだ……。  ドキドキと高鳴る鼓動を、大きく深呼吸して抑える。  「さて、と」銃を持った男が夏美のジャケットの襟首をもち、引き上げる。  華奢な夏美の体は軽々と立たされた。  「わ、私を、どうするつもり?」  頭2つほど上にあった男の顔が、夏美の目の前まで下がってきた。凶悪な表情を貼りつけて。  「違う世界に、つれてってあげる」  男の目に射すくめられたように、夏美の表情が強ばった。
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