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SCENE1 廃校舎⑤
しかたない――鷹西は覚悟を決めた。
「わかったよ。もうやめだ」と言うと、大きく手を上げた。そして、さっと腰を下ろしてしまう。
タトゥー男は一瞬唖然とした表情をした。だが、さすがに気を許すことはない。ナイフを鷹西の顔の高さに構えなおす。
「だから、もうやめだって。殺すなら殺せ」
なんと、鷹西はその場に寝転がる。足先をタトゥー男に向け、フロアに大の字になった。
首を微かに上げ、相手を見ている。
「ほら、やるなら早く刺せよ。観念したんだから」
あからさまに手足をばたつかせる。
「ク……、クレイジー」と溜息のように漏らすタトゥー男。明らかに戸惑っている。
「早くやれったらっ!」
叫ぶように言って、両足を交互に振り上げるようにする鷹西。
タトゥー男はうるさそうに顔を顰める。そして、その足をなぎ払うようにナイフを振るう。
それが、鷹西の狙いだった。
素早く足を引っ込め、ヘッドスプリングでサッと立ち上がる。
冷静さを欠いて切っ先を泳がせてしまったタトゥー男が体勢を立て直す隙を与えず、その脛あたりを蹴りつける。
足払いとローキックのいいとこ取りのようにうまく決まり、タトゥー男はドォッと倒れた。慌てて転がり、距離をとって立ち上がろうとする。
だが、それを許す鷹西ではなかった。素早く組みつくと、ナイフを持った腕の関節をとり、逆に捻り上げる。
タトゥー男が獣のような咆哮をあげた。
鷹西が手を離すと、ナイフがカランとフロアに落ちた。タトゥー男の腕がだらりと下がっている。
肩の関節を外したのだ。肘をへし折ることもできたのだが、そこまでするのは可哀想だし、やる方も気分が悪い。
苦悶の表情を浮かべるタトゥー男の首筋に手刀をたたき込んで倒すと、鷹西は慌てて下へ向かった。
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