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SCENE1 廃校舎⑥
「違う世界って?」
怯えた表情のまま、夏美が訊き返す。
「俺たちの、楽園、かな?」
「それは……」一旦顔を伏せる夏美。だが、再度上げたときには、キッと戦う目に戻っていた。「絶対にイヤです!」
言うが早いか、夏美は強く首を振る。その勢いでセミロングの髪がなびき、先端が銃を持った男の目を掠める。
「うっ」と怯んで体をのけぞらせた男の手首に、手刀をたたき込む夏美。
銃が落ちた。夏美が蹴る。廊下を滑るように遠ざかっていく。
「こいつっ」と後ろからもう一人が掴みかかってくる。
だが、夏美は体を翻して避けると、振り向いた男の喉に向けて、右手の指を揃えて貫くようにする。空手で言う貫手という技だ。
ぐわっ、という叫び声をあげ、男は腰を抜かすように倒れた。一瞬で気道にショックを与えたため、力が抜けたのだ。
銃を持っていた男が怒りの形相で拳を振るってきた。
それをかいくぐった夏美は、フロアを転がり、起き上がりざまに警棒を拾って構える。
男が太い腕をハンマーのように振りまわす。
余裕で避ける夏美。そして、隙を見て警棒の先で男の喉を狙う。剣道の突きだ。
「やあっ!」という気合いもろとも見事に決まり、一瞬で大男は倒れ伏した。
貫手のダメージでよろよろとしている男には「えいっ」と面をお見舞いする。
その場に大男の二段重ねができた。
見下ろしながら、夏美は「ふうっ」と息を吐く。
「夏美、大丈夫か?」
鷹西が降りてきた。あたりの光景を見て、息を呑んでいる。
「これ全員、おまえがやったのか?」
夏美は応えず、大きく息を吸い込み、無表情でいったん目を伏せる。
「すごいな。やっぱ大したもんだ。いや、俺も上で、同じくらいやっつけてきたんだけど……」
ゲームでもやってきたかのように言う鷹西を、夏美はキッと睨みつけた。
そして……。
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