SCENE1 廃校舎⑥

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 「鷹西さんの、馬鹿っ!」  「え? いや、ちょっと……」  怒りの表情で睨む夏美に、一瞬怯む鷹西。  「鷹西さんが派手に動くから、私まで危険な目に遭ったじゃないですか。すごく恐かったんですからね。それに、さっきから何度も夏美って呼び捨てにしたり、おまえって言ったり、いい加減にしてください」  「隠れているように言ったはずなんだけどなぁ」  「あんな所に閉じ込めるなんて、ひどいです」  「あんな所?」と生物・化学実験室を覗く鷹西。そして「アハッ」と笑った。  「何がおかしいんですか?」  「何かの不手際で残ってたんだな。それにしても、そうか、おまえ、ああいうの恐いのか?」  蛇や蛙のホルマリン漬けを指さす。  「いけませんか? 誰にだって苦手な物はあります」  「女の子みたい」  「お……」ムッとして頬を膨らませる夏美。「女です。これでも女です。もう嫌い。鷹西さんなんて、だいっ嫌い」  そっぽを向いた。すると、鷹西はその後ろから耳元に顔を近づける。  「嫌いでけっこうだよ。みんなその外見に惑わされて甘い顔しているけど、俺はそうはいかないからな。現場に出たら、刑事はみんな自己責任だ。可愛いからって、甘やかせてもらえると思ったら大間違いだからな」  「誰が甘やかせてもらえるなんて言いました? 勝手に思い込まないでください。自己責任? 上等です。わかってます」  そう言い返しながら、夏美は胸の奥で「今、可愛いからって……って言った?」とちょっとだけドキッとした。
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