331人が本棚に入れています
本棚に追加
SCENE 2 本牧ふ頭――倉庫街
気障男はカップ酒をグイッと飲み、夜空を見上げる。
あの日から何度もこの場所を訪れていた。もしかしたら、また透明人間のような不思議な男を目撃できるのではないか、と思ってのことだ。
この間は明け方だった。今日はこれから、飲みながら朝を待つ。
なぜそんなことをするのか、自分でもわからない。
透明人間なのか、エイリアンなのか、はたまた幽霊か、その正体を知りたいという気持ちもあるが、それ以上に、あの男の哀愁を帯びた背中が忘れられなかった。
哀しみの奧に怒りも感じさせるような、そんな佇まいだった。あれは、なぜだろう?
これまで、自分も含め、多くの人間の悲劇を見てきた。今、気障男と関わりのある者は、みんな何らかの辛い過去を持つ。
もちろん、それをあからさまにするヤツはいない。
押し隠し、それぞれ気楽に生きていこうと決めたのだ。あの男がまだ哀しみに囚われ続けているなら、こういう生き方もあるんだぞ、と教えてやりたい気持ちもあった。
今日は日中、それなりに稼いだ。だから、酒を買い込み、少し早めにこの場所に来ていた。何本かをあけ、いい気分になり始めたが、まだ夜の帳が降りたばかりだ。
一眠りすれば、明け方。この前くらいには目が覚めるかな……。
そんなふうに漠然と考えていると、急に車のブレーキ音が聞こえてきた。
見ると、先日あの男が突然現れたあたりに、車が2台停車していた。
国産の高級車だ。次々と男達が降りてくる。ある種危険な匂いを感じさせる連中だった。ヤクザとか半グレとは違う、もっと機械的に悪さを行うような者達に感じられた。それが、前の車から4人、後ろから3人。
月明かりに照らされ、それぞれの屈強そうな体つきまで見えた。
そして、最後に一人、後ろの車から最も身なりの良い男が出てくる。これで8人だ。
気障男は、倉庫前に雑然と並べられた木箱やドラム缶の後ろに隠れた。
な、何だ? ヤバイ日だったのかな?
微かに後悔と怯えを感じ、それでも好奇心に身を震わせながら、様子をうかがった。
最初のコメントを投稿しよう!