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SCENE 2 本牧ふ頭――倉庫街②
原木和夫は、車を降りるとまず建ち並ぶ倉庫を順番に見た。
そして、反対側を向き、月明かりを映す海に目をやる。暗くうねる水面は、そこだけを見ていると、異世界にでも引き込まれてしまいそうな気分になる。
ふっと息を吐き、最後に部下達を見る。
皆、屈強な体格。そして、懐には銃を忍ばせている。元警察官や元自衛官で、今は原木の下で暗躍している者達だ。
原木自身も、元々は神奈川県警の刑事だった。
油断なく、それぞれが辺りに視線を巡らせる。
怪しい者は、今のところいない。
さっきすぐそこの倉庫の前で、ゴソゴソと隠れる男がいた。だが、ホームレスらしい。気にする必要はない。事が終わったら始末する。うまく使えば喧嘩か何かに見せかけることも可能だろう。
指定してきた時間まであと僅かだ。そろそろ現れるか?
しかし、どこから?
部下達の間に緊張感がはしる。原木自身も息を大きく吸い込み気を落ち着ける。
昨日、我々の上司である佐々木昌治の元にメールが来た。送ってきたのは「R――REVENGER」と名乗る人物だった。
復讐者――ふざけたネームだ。
内容がまた輪をかけてふざけていた。
『3年前の真実を公表せよ。さもなければ、おまえ達全てをこの世から抹消する』
思いだし、チッと舌打ちする原木。
3年前とは、おそらくあのことだろう。だとすると、あの時の被害者の親族か関係者か?
いずれにしても、捨てておくわけにはいかない。
話し合いたい、と佐々木から返信したところ、この場所と時間を指定してきた。だが、原木が代わりに精鋭を連れてきた。
一瞬、空気が動いた。
原木だけでなく、部下達も気配を感じて顔を上げる。
何かが空を飛んでいたような気がした。
鳥か? いや、もっと大きいはずだ。いったい何が?
全員の視線が、一番近くに建つ倉庫の天井に集中した。
夜空――。微かだが星も見える。
その夜空が、今、一部分だけ歪んだ。
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