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SCENE 3 Cafe「一花」
「ね? ひどいと思いません?」
夏美はそう言ってテーブルの向こう側の2人を見た。
「ま、まあまあ、落ちついて。コーヒー飲みなよ」
そう応えたのは、県警交通部交通機動隊に所属する夏川絵里巡査部長。彼女は白バイを駆使し、県内の幹線道路を走りまわっている。夏美の2つ先輩だ。
「いやぁ、あのワイルドな鷹西さん相手に正面切って喧嘩するあなたもすごいよ」
絵里の隣で呆れ顔をしているのは、神奈川県警総務部広報課の深山早苗巡査部長。夏美より5つほど先輩になる。
この2人は、県警の女子寮で両隣の部屋だ。珍しく非番が一緒だったので、今日は揃って映画を観て来た。
「だって、あの人があまりにも無神経だし図々しいから……」
ますます怒りを強くする夏美。
「ほらほら、熱いうちに飲みなさいって。そして少し落ちついて」
早苗が更に言う。
言われるままに一口飲む夏美。苦みの中にほのかな甘み。そして、アプリコットの香りが鼻の奧を通り抜けていく。いつ飲んでも美味しい。この店のとっておきである、アプリコット・コーヒーだ。
「Cafe 一花」は県警女子寮のすぐ近くにある。なので、ホッと一息つきたいときの憩いの場になっていた。
こぢんまりとしているが、落ちついた雰囲気のカフェで、軽食やちょっとしたアルコールも置いてある。居酒屋と違って静かに飲めるのがいい。
映画の後、そのまま寮に帰るのはもったいない気がして、ここに寄ることにした。この勢いだと、そろそろお酒へと進んでいきそうだ。
22才の夏美はまだ酒にあまり慣れていないものの、この2人に鍛えられてだいぶ飲めるようになってきた。
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