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「それにしても、たった2人で14人たたきのめしちゃうって、すごいね」
絵里が溜息交じりに言った。
「しかも、密輸グループの方には、タイの元軍人や裏社会で活動するプロの殺し屋も混じってたっていう話だよ。あんた達2人、いったい何者なのよ?」
広報にいる早苗は情報通だ。昨夜検挙した者達のことも、すでに伝わっているらしい。
「あんた達2人って、あんな人と一括りにしないでください」またしても怒りがこみ上げてくる夏美。「あの人のせいで、私、すごく恐い思いしたんですよ。もう少しで別の世界へ売り飛ばされるところだったんだから」
「べ、別の世界って……」
苦笑しながら顔を見合わせる早苗と絵里。
「何度も呼び捨てにしたり、おまえって呼んだり……。班長も班長だわ。あんな人となんとか1号とか2号とか、ああ、もう、やだぁっ!」
両手で頭を抱え首を振る。そんな夏美の前に、香ばしい匂いを漂わせたメニューが差し出された。
「どうぞ、夏美ちゃん。これでも食べて気をとり直してね。私の奢りだから」
この店を一人で切り盛りしている通称「花さん」だ。笑顔の素敵な女性で、ほっこりした雰囲気はいつもこちらの気持ちを和ませてくれる。本名は聞いたことがないが、たぶん店名の「一花」だろうと皆思っている。そして、親しみを込めて花さんと呼んでいた。
「わあっ、ハナ・スペシャルだ」
現金なもので、たちまち顔をほころばせる夏美。
「あ、いいなぁ」
物欲しそうに見つめる早苗と絵里。「あなた達のもあるから」と花さんに言われ「やったー」とガッツポーズをする。
この店の名物メニューの1つだった。トーストに目玉焼きがのり、まわりにチーズが程良く溶け、ベーコンも散らしてある。いわゆる目玉焼きトーストだ。焼き加減が絶妙で、味わいが他の店とは段違いだった。
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