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「そ、そんなことより」と夏美が切り出した。彼女もちょっと戸惑っている。「警察の者とさっき話をしたって、そこで起きた事件についてですか?」
「ああ、そうだよ。俺、全部見たもん。それ、話したのにさ、酔っ払いの戯言だと思ったのかな? 全然まじめに受け取ってくれなかった」
この状態じゃあなぁ、と鷹西は思ったが、もちろん口にはしない。
「あの、お名前は?」夏美が訊く。
「俺? うーん」しばし考えてから「気障男」
「は?」「気障男?」同時に口にし、顔を見合わせる鷹西と夏美。
「この辺じゃあそう言われてんだ。本名なんてもう忘れたよ」
「そうか。じゃあ、気障男のおっさん、俺たちにも教えてくれないかな、何を見たのか。いったい何があったのか」
鷹西が気障男の肩を抱くようにしながら訊いた。
「え? さっき話した連中に聞けばいいじゃん」
戸惑う気障男。
「いや、直に聞きたいんだ。その方が正確だし、臨場感あるし、ね」
鷹西が言うと、気障男は「うーん」と唸った。迷っている。
「お願いします」
夏美が頭を下げた。
「わ、わかったよ」
顔をほころばせながら頷く気障男。
なんだよ、とまた憮然とする鷹西。可愛いと得だな。こいつの検挙率の高さは、それが影響してるんだな。
仏頂面になっていると、夏美と目が合った。
「どうしてそんなに恐い目をしているんですか?」
「い、いや、べつに……。それより、頼むよ、気障男のおっさん」
誤魔化しながら鷹西が水を向けると、むしろ話したかったんだ、とでも言うような感じで、気障男は手振り身振りで説明してくれた。途中から、また座り込む。
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