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聞き終わり、あまりの内容に唖然とする鷹西と夏美。
透明人間? 瞬間移動? そんな。ホラーやSFじゃないんだから……。
「あのさ」と気障男が話し終わり一息ついてから言った。「あの、不思議な男。おっそろしいけど、警察なら捕まえられるだろ? もし捕まえたなら、教えてほしいんだ。いや、どうしよう。それより、伝えてもらった方がいいのかな?」
「え? 伝えるって、何を?」
鷹西と夏美が不思議そうな顔をしながら気障男を見つめた。
「あいつ、なんだか、すごく悲しいことを抱えていそうだったからさ。あんなことをしたのも、それが原因なんじゃないかな。だから、辛いことも悲しいことも、時間とともに想い出になるし、そうやって考えた方が、きっといいと思うよ、って伝えてほしいんだ」
「辛そうだった? 悲しそうだったんですか?」
神妙な表情で言う夏美。澄んだ瞳で気障男に視線を向けていた。
その横顔を見る鷹西。そういう顔が、また反則なんだよな、こいつは、と胸の高鳴りを抑えながら思う。
「ああ。あんた、優しそうだね。それに、純粋そうだ。まだ、希望をたくさん持っているし、それを叶える可能性にあふれてる。でもさ、そうじゃない人間も、山ほどいるんだよ。それを、刑事なら覚えておいてほしいな。そういう人間に、寄り添ってほしいよ」
夏美は戸惑っていたが、しばらくして「わかりました。ありがとうございます」と頭を下げた。
「わかった」と鷹西。「犯人を逮捕したら、気障男っていう人がそう言っていたって、伝えておく。約束するよ。あんたにも報告に来るから、居場所を教えてくれないか?」
「ふう」と一息ついて、気障男は立ち上がった。「俺はこの辺をウロウロしてるからさ。本牧ふ頭から、あっちの高速の下とか、その辺り」
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