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「忖度っていう言葉が似合うのが霜鳥管理官。最も似合わないのが徳田班長だ」
立木がそう言うと、その向こう隣にいる鷹西が不満顔になる。
「班長、俺らのことを跳ねっ返りとか問題児だとか言うけど、本人が強行犯係の班長の中では最も異端だからなぁ」
肩を竦めながら言う鷹西。
「俺ら、の『ら』って、もしかして私のことですか? だったら心外ですね」
横目で睨む夏美。
「あ?」やはり横目で視線を向ける鷹西。「ら、が嫌なら『ぬ』とか『へ』とかにしてやろうか?」
ムッとする夏美。そして「馬鹿みたい」
「おいおい」立木が肩を竦めた。「俺を挟んで痴話げんかはやめてくれ」
「痴話って言い方はやめてくださいよ。こんなヤツなんかと」
「こんなヤツなんかって、失礼にも程がありますよ」
鷹西の言葉に声を荒げる夏美。
「そこ、うるさいぞ」と他の班の先輩刑事に注意を受けてしまう。
慌てて口をふさぐ夏美と鷹西。
「小学生か、おまえらは……」
立木が、やれやれ、と頭をかいた。
気を取り直して前を向く夏美。もう、鷹西の相手をするのはやめた。キリがなくなる。
相変わらず不満そうな表情の徳田が見えた。その視線の先は、霜鳥管理官だ。
県警捜査一課強行犯係にあって、徳田班は一種特異な立場にあった。
班長の徳田は、事件捜査の際に少しでも疑問点があると、上の方針と違っても納得するまで調べさせ、自らも動く。
デリケートな事案で上層部が捜査に手心を加えようとしても、断固として拒否し、法に基づいた裁きを受けさせることを目指す。そこが徳田の魅力であり、夏美は彼の班に所属できることを誇りに思っている。
そんな徳田ゆえに、上から睨まれ、疎まれることも多い。おそらく霜鳥はその一部なのだろう。
だが、かたくなに自分のやり方を貫く徳田を頼もしく思う上層部の人間も多くいるため、未だに徳田班は存続している。
霜鳥のような人間が増えると立場もあやうくなるだろうが、それでも徳田は姿勢を変えないし、部下達はそれに従う。それが、徳田班だった。
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