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初動捜査に当たった機捜や所轄の刑事課の捜査員達が次々と報告をしていく。
その中に、例の気障男の話も含まれていた。報告しているのは機捜の若手刑事だが、どうも、あまり重要な証言として扱っていないように思える。
報告が終わると、霜鳥は「フン。酔っ払い、それもホームレスの幻覚か? まあ、騒ぎぐらいは聞いたのかもしれんな」と笑った。
「殺害された者達はみな一撃で致命傷を負っている。犯人は相当戦闘能力の高い者だと思われますよ。透明人間かどうかは別として、特異なヤツであることには違いない。酔っ払いの戯れ言として一笑に付す訳にはいかない証言だと思いますけどね」
徳田が意見を言った。
霜鳥が露骨に嫌な顔をする。徳田に負けぬほど大きくてがっちりした体、スキンヘッドで口髭。鋭い目。押し出しの強さは相当なものだ。
「犯行が単独であると決まったわけではない。複数犯の可能性も捨てきれないし、むしろ、その方が、状況から見てスッキリする。私はその線で捜査する必要性を感じている」
「ふうん」と特に異議は唱えない徳田だが、明らかに不満そうだ。「そうですか」と溜息のように言った。
「気になるなら、君の班は別の線で動けばいい。どうせ、独自路線で動くんだろう、いつものように」
「まあ、あまりにも捜査の方向がはずれていきそうになったら、そうさせていただきますよ。霜鳥管理官に限って、そんなことはないと思いますが」
徳田と霜鳥の視線が合った。一瞬険悪なムードになるが、さすがに2人とも場の状況を乱すことはしない。どちらともなく、会議を続けるよう促した。
その後一通りの報告が終わり、霜鳥をはじめ、他班の班長等上層部が方針をまとめた。
殺害された中の原木という人物や、極東エージェンシーの幹部の多くが元警察官であることから、過去に彼らとトラブルがあったり、検挙されて恨みを持っている人物、団体などを主にあたる。また、極東エージェンシーという企業そのものと反目し合うような組織がないかも捜査することになった。
徳田も方針検討には加わってはいたが、なぜかあまり口を挟まず、冷めた目で霜鳥らを見ているだけだった。
そして会議は終わり、それぞれの役目を担い、捜査員達は動き出す。
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