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SCENE 1 廃校舎
つい最近廃校のためとり壊しが決まった高校の校舎は、夜の闇に染まると一際もの悲しい雰囲気を醸し出していた。
鷹西惣一郎は、一旦校舎の外に出て、中の気配に気をつけながらスマホを取り出す。
ひっそりとしているが、先ほど数名の男達が校舎内に入り込んでいったのを確認していた。
ここ数日、横浜市内の貴金属店が襲われる事件が相次いでいた。数名のグループの犯行で、おそらく半グレと呼ばれる連中と見られている。
市内各区をまたいで頻発していたので、最初に犯行があった区の所轄に捜査本部が設置されているが、実質県警刑事部捜査一課の徳田班が中心となって捜査していた。
その一員である鷹西は、独自の情報網から、今夜この場所で盗品の取引が行われるという情報を掴んだ。
情報に間違いはなかった。先ほど校舎に入っていったのは、犯行グループに間違いないだろう。
そして、強奪した貴金属を連中から買い取るために、最近暗躍し始めた東南アジア系の密輸グループがやってくるはずだ。
そろそろ、班長の徳田に伝えようと思った。
連中は今、職員室だった部屋にいる。まだ買い手側のグループは来ないが、待つ間に連絡しておいた方がいい。
校舎の陰に隠れながら、徳田の名前をタップする。
すぐに出た。小声で詳細を説明する。
「おまえというヤツは……」ため息とともに、徳田の声が聞こえてきた。「単独行動は慎め、と何度も言っているはずだぞ」
「すいません。でも、一人で動いた方が裏情報は集めやすいんで」
「同じ事を、3分ほど前に別のヤツから聞いた」
ため息混じりの徳田の声。
「え?」驚き、怪訝な表情になる鷹西。
「月岡が、今おまえと同じ場所にいる。どこかに潜んで買い手グループを待ち受けているはずだ。あいつも、一人で動いてそこまで突きとめていた」
月岡? え? 月岡夏美?
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