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八.
「祖母様、わたくし何度かこの小屋に入ったことがありますの。子豚さんやお馬さんにどうしても触れたいと言ったら、タカト様が気を利かして連れ出してくださるのよ」
「あらまぁ、随分と面倒を見て頂いたのですね」
「えぇ、えぇ。以前わたくしが干し草の上で、ついうたた寝をしてしまった時は、ずっと手を握って下さったの」
「うふふふっ、お優しいこと」
オディーナはすっかり困惑して、両者が交わすのんびりとしたやり取りを眺めていた。
何とも緊張感の無い会話である。先ほどまで涙を流して震えていたはずのリーネは、タカトと二人きりで眠っていたことをけろりと告白するし、それを聞いて怒りもせず、柔和な表情を浮かべている大叔母も大叔母である。
——育ちの違いってこうも如実に表れるんですね、なんかすごくショック受けました。
オディーナは概念でしか知らなかった、貴族らしい雅な振る舞いを目の当たりにしている気分であった。
タカト・グライアンツは隣のバルトに肘で小突かれる度に、誤魔化す様に咳払いを繰り返し、そうして捕まえた六人の捕虜を見張っては、如何にも聞こえていないかのような素振りであった。
その優雅な会話も、ダン達の帰還により打ち止めとなる。
二手に分かれた彼らは、反撃を許す間もなく見張りを捕らえ、ぬかるんだ地面の上を引きずるように連行してきた。ポックル・ポポだけが、私は長い時間早く動けないので、と警戒のために残ったようだが、兎も角これで見張り十人は全員押さえたので、オディーナは密告書に記す皆の偽の集合場所をどこにするか、相談することにした。
この煉瓦造りの居城から、遠すぎず近すぎず、だいたい数キロメートルで収まる範囲ということで、選ばれたのはセガタ・カインがかつて通っていた訓練施設の裏倉庫であった。
「あそこに行くには、でっけぇ裏山の近くにある十字路を西に進めばいい。つまりはタカト、お前らがこっそり戻ってきたルートの近くって訳だ」とカインが言った。
密告状の筆を担当するのは、意外にも達筆なアレクだ。
その間、タカトは幽閉されている兵士たちの解放、マチは他の召使いたちと連携を取り朝食の支度を、ダンとカインは捕虜(ただしオディーナに搾られて使い物にならない三人を除く)をひとりずつ尋問して、大叔父の所在を吐かせようとしたが、どうも最初から知らされていないようである。
「我々が配置されたのは、あの爺様が連行された後のことだ。知る由がなかろう」
その後もダンが、「目と鼻と耳、どこから捨てたいか言ってみたまえ」と脅迫し、続いてカインが「いっそ、この小屋ごと焼け死ぬのはどうよ」と手に宿した炎(どうやらこの系統を得意とするようだ)を見せびらかすも、ついに白状することはなかった。
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