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二.
成程、確かに彼女はサキュバスだ。共に行動を始めたタカトは、淫魔の持つ技能が単に性技に寄ったものではないと思い知り、舌を巻いた。
茶店で腹ごしらえを済ませた後、日も暮れ始めたので、少し進んだところにある宿で一晩を過ごすことにした。当然タカトは別室を所望したが、金を握っているのは淫魔であるため、聞き入れられるはずもない。せめてもの抵抗で、扇情的な恰好を隠すための羽織ものだけは着用させ、両者は酒を嗜みながらテーブルを挟んで向かい合った。
淫魔は名を、オディーナといった。
「名前を聞いただけで呪われるとか思いました?残念ながらわたしはボンクラなので、そんな力はありませんよ。ええ、貴方の言う通り、ボンクラなので!」
タカトに弱いと評されたのを相当根に持っているのか、あるいは自虐のつもりか。
オディーナはぐびぐびと酒をあおりながら、溜まっていた不平不満を吐き出すように、自身のこれまでの経緯について語り始めた。
オディーナの言うところによれば、彼女はここから南に数百キロほど離れた小さな村(ここが元は人間が暮らしていた村なのは想像に難くないだろう)の生まれで、数年に一度行われるというサキュバスの群れの大移動から逸れてしまい、数年ほど孤独の身で過ごしてきたらしい。
オディーナにとって不幸だったのは、降り立ったこの土地の民族が、純粋に強かったことだ。王都直近の地帯であるここは、度重なる生存戦争を生き延びた蛮族の系譜が息づいており、ただの一兵卒の中にも卓越した技量、身体能力を有するものが多数紛れていた。
そのため、初見でいきなり殺しにかかってきそうな血気盛んな者を避け、脇の甘い男を慎重に選別しては、どうにか精力を奪って生き抜いてきた。
付け加えると、オディーナはごく平均的なサキュバスの能力は兼ね備えている。
ただ、平均では付いていける環境でなかった、そういう話なのだ。
素早い抜刀でオディーナを縮み上がらせたタカト・グライアンツも、その蛮族の血筋に該当する者である。ちなみに年はオディーナの方が五つ上の二十七歳であった。
そんな身の上話を聞いているうち、タカトはオディーナに対する壁が少しずつ緩んでいく自覚があった。彼女は隙の見せ方が中々に上手いのだ。
酒の入った状態で心のハードルを下げ、同情を誘うような苦労話を持ち出す。それと並行して、羽織を少しずつ着崩していき、持ち前の柔肌をちらりちらりと晒していく。
そうして心の距離を詰めていくのだ。
胸、腿、首筋、脇と、フェチズムをそそる箇所に絞った熟練の魅せ方。それらの挙動に一切のわざとらしさを感じさせない様は、思わず息が漏れてしまうほど。
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