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「オディーナ殿、某の失言を許してほしい」酒で気分が昂っているのか、普段より張りのある声でタカトは、「戦闘で対峙せずとも相手を事前に制する。それが君の、いやサキュバスの戦い方であると某は学びました。お恥ずかしいことに、某も野蛮の血筋ゆえ、どうにも直接戦闘のことばかり基準に置いてしまう。己の未熟さを痛感するばかりだ、情けない」
蛮族流の誉め方は案の定というべきか、やはり盛大にずれていたため、かえってオディーナは「タカトさんのお馬鹿」と機嫌を悪くしたが、蛮族に気づく由もない。
「野蛮と言えば、最初に会ったとき随分と怒っていましたよね」
オディーナはいつ間に追加した酒を味わいながら、タカトに問いかける。
そのことですか、と急に苦虫を噛み潰したような顔を浮かべ、こう言った。
「実は此度の旅の理由には、その怒りが大いに関わっているのです。あまり大っぴらに話してはならないのですが、こちらだけ隠すという不平等はよろしくない」
タカトが語ったのは、故郷における権力争い、言い換えればお家騒動に関することであった。
「某自身は政治というものに関心はありません。じっと腰を据えて、権謀術数を張り巡らすというのは性に合わないし、何より退屈だ。しかし、そんな某から見ても分かるほど、一部の横暴が目立ってきているのです」
「なるほど、その気持ちはわたしも分からなくはないですよ」とオディーナが言った。
「サキュバスの群れでも似たようなことが起きるんですよ、力の強い女王が取り分を無理矢理奪って、末端のサキュバスにまで行き渡らないなんでザラですから。弱いサキュバスたちはいつも割を食らって、不満だらけでした」しんみりとした様子でオディーナが言う。
「更に不味いのが、そういった声に対する、上の連中のまるで意に介していない態度だ。
某と同世代の者たちの間でも批判は広まっている。だというのに、ますます私利私欲に走り、暴政を極めているのですよ」
タカトが乱暴に寄り掛かったせいか、椅子の背もたれから軋むような音が響いた。
「何を隠そう、今故郷のまつりごとを監査しているのは、某の大叔父に当たる者なのですが、これが良くも悪くも泰然自若とした人物でして。既に明るみに出た悪事が王都の耳に届かぬはずがない、ただどっしりと構えてその時が来るのを待てばよいなどと、悠長なことを言われる」
「それで辛抱できずに飛び出してきた訳ですかぁ」
「いえ、実はもうひと悶着ありまして」
酔いが回って赤らんだ顔が、急に引き締まった表情へと変わるのを見て、オディーナはただならぬ事態であると察した。
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