二.

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「某たちもただ指を咥えているだけではない。力には力を以って対する、それがこの地に脈々と受け継がれてきたやり方です。志を同じくする者が某を含め九人、一人一殺にて使命を果たさんと企んでいたのですが」 「敵方に勘づかれました、と」 「いや、大叔父にですよ。そういう気配には鋭い人だ、すぐさま某に王都への出向を命じられた。主格たる某が不在では皆が動けないと踏んでいるのです」 どん、と強くグラスを置いてしまうタカト。一旦は収まっていた怒りが、ふつふつと燃え上っていく。 「こうなれば最終手段だ、このタカト・グライアンツの身命と引き換えに王都での直訴を行うしかない。元より政略結婚の道具として使われる身、正義のために散るのなら本望というものです」 タカトがそう言い終わるまで、オディーナは声を発さず、額に親指を当てて思案していた。 目の前には、並々に注いだ酒が一杯。それを一気にあおり、今度は両手を組んで考え込む。 タカトの話を細やかに、深く掘り下げるように吟味し、数十秒ほど経った後に静かに口を開いた。 「その直訴の件、ひょっとしたらですが、むしろタカトさんの大叔父の立場を不利にしてしまうかもしれません」 ぴくり。先刻までの和やかな雰囲気とはかけ離れた、猛獣を思わせる眼でオディーナを凝視するタカト。 「——夕刻までの某なら、たかが淫魔の戯言と君を斬り捨てただろう。しかし、今の某は、オディーナ殿が如何に辛苦を重ねてここまで来たかを知っている。その経験を見込んで、素直に意見を聞きましょう」 「では遠慮なく。もし貴方の直訴が無事上手くいったとして、責任を問われるのは監査を引き受けている大叔父さんです。しかも身内が直訴により死んだとなれば、家そのものが失墜する可能性も否定できません。そして何より、タカトさんの言う横暴な連中が、先手を打って全ての罪を大叔父さんに擦り付けたとしたら……どうです、これらの指摘は的外れに思えますか、タカトさん」 「それは確かに、全くないとまでは言い切れませんが」 オディーナは真っすぐタカトを見つめている。紅色の瞳に映る顔には、明らかに動揺が見て取れた。
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