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——この千載一遇の逆転チャンス、絶対逃すわけにはいかねぇんですよ。
実際のところ、必死になっているのはオディーナの方だった。彼女はとにかく貧しかった。
群れから離れて数年、女の厭味ったらしい抗争から解放されたと喜んだのも束の間、来る日も来る日も、色仕掛けを無視して即殺そうとする男どもに震え、道端の草木を食べざるを得ないような苦境はもう懲り懲りなのだ。
そんな中、ようやく少しは話の通じる(かつ操りやすそうな)青年を捕まえた。しかも都合の良いことに金の卵ではないか。一騒動起こして手柄をたてさせれば、間違いなく棚ぼた、自分にも恩恵があることは確実。いっそ人間社会の中にそのまま潜り込むという算段まである。
絶対にこの男との縁を手放すものか、と考えているのであった。
「オディーナ殿は、某に計画を諦めるなと言っているのか」
「勿論リスクがあるのは承知しています。そこでわたしも力をお貸ししましょう。こう見えてもサキュバスですからね、搦め手は得意中の得意ですよ」
完全に実力を盛ってしまっているが、ここは押しの一手だと強く出る。
ううむ、と唸ってから数秒の沈黙を経て、タカトは了承の意を示した。
「確かにその通りだ。大叔父の立場が危うくなっては元も子もない。某は早まる余り、うっかり地雷を踏み抜くところであった」
「ところで、さっき政略結婚がどうのこうのと言ってましたけど」
「あぁ、そのことですか。実は大叔父の孫に当たる人物が二人おりまして、その一方の女子との縁談話が持ち上がっていたのです。どうも某を養子として迎えたいらしいのですが、気乗りはしないもので」
「へ、へぇ。ちなみにもう一方の性別とかは」
「む、男ですがそれが何か」
タカトは最後の一杯を飲み干すと、「ひとまず、ここまでにしましょうか」と話を切り上げた。
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