その、記憶は

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そっと溜め息を零せば、小さな声が空気を揺らしました。 あともう少し、頑張ってみることにします。 重たい体を起こし、足を踏み出しました。商店街を抜け、歩きはじめます。 幸い、雨脚が優しくなってきました。もう少し、遠くまで行けそうです。 やがて、夜の帳が降りてきました。 覚束ない足取りでしばらく歩いたのち、わたしは街灯の下に腰を下ろしました。 彼に会いたいです。とても、とても、会いたいです。 あぁ。カミサマがもし、いるのなら、どうか彼に会わせてください。一目でいいから、どうか。 そんな風に願いをかける気力しか、もう、残っていませんでした。 何度も願いました。繰り返し、繰り返し。今の彼の姿を、わたしは少しも知らないのに。
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