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「……どうしよう、人間じゃなくなっちゃった」
紗香は校舎へと駆けつけた。
がしかし、騒ぎを起こした張本人はもはや人間ではなかった。
「壊す壊す壊して壊す!私を拒絶した世界なんて全て壊す!」
負の感情を制御出来ず、魔物に取り込まれてしまった彼女。
人間だったときの悲しみが力になり、哀れな魔物になってしまった。
「……早く助けてあげなきゃ」
魔物になった委員長は、ただただこの世界を壊すことしか考えられなくなった。
黒いエネルギー弾を放出して、とにかく撃ち込んだ。
校舎に人にこの土地に。
人を見つけては無差別に打ち込み、建物や地面をふと見れば手から魔弾を発射していた。
校舎は壊れ、地面はボロボロ。
人に当たれば人は石へと変貌した。
「嫌よ、なんで!私は何もしてないじゃない!石になんてなりたくない!」
「……黙れ!」
魔物は女生徒をロックオンした。
魔弾を彼女目掛けて発射した。
「危ない!」
思わず私の体が動いた。目の前で人を死なせたくないという気持ちが体を動かした。
シールドを張って女生徒を助けてそのまま魔弾をはじき返す。
その魔弾はモンスターの髪を掠めた。
「……はっ?」
そのせいで標的が私に変わった。
「……なんで?なんでなの?私は辛い思いをしてこの力を手に入れた。でもあなたはそんな思いしていない!ずるい!なんで!?なんで私ばかり!」
「……勝手にキレてんじゃないわよ!別に辛い思いなんて誰だってすることだよ!」
「黙れ!黙れ!黙れ!!!!」
モンスターがキレると地面から黒い泥が湧き上がりそれが肉体を持ち謎の生物が生まれ人々を襲い始めた。
「うわっ!なんだこれ!」
声がする方向を見ると、見慣れた赤髪が見えた。
「れっくん!?早く逃げて!」
「無理だ! こいつは俺が生み出しちまったモンスターだ! だから俺がけりをつける!」
そういって、素手で殴り始めた。
「ちょっと!れっくん!?どういうこと!?」
「俺がこいつを振ったらキレた!いやあれは振ったのか?こいつが勝手に俺のことが好きで、俺は無理って話してるのを聞かれただけで」
「間接的にだけどそれ間違いなく、れっくんのせいだよ!」
「だから蹴りつけるって言ってんじゃねーか!お前は何回も言わなきゃわかんねーポンコツか!?」
「こんなとこでおちょくらないでよ!それより危ないから逃げて!」
「あぁ!? 危なくねぇよ!お前こそ下がってろ!死ぬぞ!」
モンスターを殴りながら私に向かって啖呵を切る。
ええーなんで素手で殴れるの。
モンスターが蹴散らされてる、親玉も目が点になっているし。
「あぁぁ!烈斗!私の愛しき人!なのに何故!なぜ私を拒絶する!」
「委員長、別に拒絶したわけじゃねえよ、ただ俺は今」
「何を言うか、私の事を愛してはくれないのだろう。それは拒絶と同じこと。私を愛せ私だけを見て……私と一緒になって」
「委員長、それは無理だ。俺は今……」
「あぁやはり!やはりか!」
「話聞けよ!ぶっ殺すぞ!」
「れっくんアイツにキレないで!さらに面倒くさくなるから!」
烈斗の言葉をさえぎり、彼女の感情は高まっていく。
「愛してくれない、私以外を愛しているのか?それがホントなら私は悲しい。ならすることは1つお前を殺し、私の中で生き続けさせる」
黒い1本の光線が烈斗めがけて放たれた。
チュドーン!と大きな音を立て爆発する音が聞こえた。それを聞いて彼女は良しと不敵な笑みを見せた。
がしかし、その笑みはすぐに消えた。
「……なんでよ。なんであなたに当たるのよ!」
「残念ね、当たってもいないのよ」
煙が薄くなり、烈斗の死体を確認しようとしたモンスターは驚いた。
殺したはずの烈斗は生きていた。しかも光線をくらった痕跡もない。
その痕跡があったのは、違う方向にいる女の方だった。けれど地面に黒い染み光線の跡が残っているが彼女はピンピンしている。
光線は烈斗めがけて放たれたはずだった。
がしかし、光線は曲がり紗香の方向へ向かっていった。
「少しは、役に立つじゃんこのアクセ」
ポッケの中に入ってた爆発アクセサリーを光線の軌道上に投げ、光る部分に光線を当て起動を変えた。自分に当たらぬようシールドも張って。
「爆発しなかったし、あれ成功したやつじゃんあの子に悪いことしたな」
「紗香、お前……」
れっくん、すごく驚いてる。
そりゃそうだよね。昔からの幼馴染が自分を殺そうとしてくるやつと同じ力をもってるんだもん。
「大丈夫だよれっくん。私が君を守るから」
だから私は普段彼と話すように自然笑顔でそう言った。
「おい!紗香まて!」
もう私の目の前で大切な人を失いたくないもん。絶対絶対、れっくんを守る!
「……さぁイメージしなさい、愛に飢えた堅物モンスター!貴方がこれから幸せになる姿を!」
「何を言うか私に幸せなどもうない!」
「ある! イメージしなよ!南国の島で結婚式をあげる自分の姿を!」
「ウェディングドレス着て、ケーキを切ってヤシの実をすするのもいいね!」
南国の青い空、その暑い日差しの中、コバルトブルーの海辺であげる挙式。
幸せいっぱいの花嫁と花婿。
ハイビスカスの花飾りをつけた少女から幸せのおすそ分け。
「悪くないかも……」
「でしょ!じゃあその夢を抱いて!貴方の悲しみを消しさろう!」
「……えっちょっとあなたの格好何?そしてこの空間は!?」
2人が話している間に、見ていた風景は学校から南国へと変わっていた。
さっき話した妄想と同じ場所。
紗香の格好もウェディングドレスを着て手にはケーキナイフを持っている。
「結界、大丈夫ここは夢を叶える場所。そして私はここの案内人」
「なんで案内人が私と同じ格好をしてるのよ!花嫁は私よ!」
「そりゃあ、私案内人ですから。貴方をちゃんとした方向に導くね」
「こんのクソガキ!」
「逃げようとしても無駄だよ。ここは私の固有結界さぁ、夢を叶える時間だよお姉さん」
背中を向け逃げる彼女。
花嫁姿の私は手に持った大きなケーキナイフを化け物の花嫁の背後をとりそのまま刺した。
「悲しみは消してあげる、永遠なる幸福な幕引き」
「うわああああああああ!」
南国で散ったモンスターは、普通の日常の真面目な委員長へと戻り、石にされた人は元に戻りなにもかも全て元通り。
「これにて一件落着、めでたしめでたし」
その後元に戻った学校のベンチに腰をかけ、委員長のお姉さんを介抱しました。
「……大丈夫ですかお姉さん」
「……ええ、少し夢を見ていたみたいでもなんかスッキリしたわ」
「そうですか、なら良かった」
「ねぇ、お守り落ちてなかった?ピンクのやつ」
「いえ、何も」
「そう、ならいいわごめんなさいね」
良かった。あの人無事に助かって。
……でもごめんなさい、そのピンクのお守りは回収させてもらいます。それがあの人との約束なので。
「おい、紗香」
少し不機嫌そうな幼馴染が私を呼ぶ。
「れっくん……あのね!これには深い訳があってね!」
「何も言うな、送ってやる。乗れよ」
ぶっきらぼうにそれだけ言われ。私は無言で頷き彼について行く。
ブロロロとボロボロなバイクは音を立てて
赤い夕焼けの道を不良と私を乗せて走り出す。
「……」
何も喋らない無言な時間。ものすごく気まづい。不機嫌そうな幼馴染の腰に手を回し後ろに座っているので尚更きついのです。
「なぁ、お前あんなこといつもやってんのか」
沈黙の中、ポツリと彼が呟いた。
私はその言葉に急いで返答する。
「うん」
「いつからだ」
「5年前から」
「……そうか」
「……ごめん」
「なんで謝んだよ、お前のやってる事は凄いことだぜ。ただお前の親や友達に心配はかけるがな。どうせお前親にも言ってねーんだろこれ」
「うん……」
「お前がこんな危険を侵してまでやることじゃねえって俺は思うけどよ。あるんだろそこまでやる理由がさ」
私は無言でれっくんに捕まってる手をギュッと力を入れた。
「……死ぬなよ、やばいって思ったら逃げろそこに人がいてもな」
「……無理だよ、そんなこと出来ないよ」
「やれ、お前が生きてなきゃ悲しむ奴がいるだろ」
「けど!助けないといけない人にもそういう人がいるもん!」
「……そうか、そういうやつだもんなお前マジムカつくぜ」
ちょっと、嫌だなと思ったので私は反抗したたいどで答えた。
「これは、私の事れっくんには関係ないよ」
「ちっ、そうかなら関係あるようにするまでだ」
「……えっ?」
「俺もお前と一緒に戦う」
「えええ!?無理だよ!だってれっくん魔法使ったことあるの!?」
「やってみなきゃわかんねぇだろ!それに今日だって素手で殴れたんだ余裕だろ」
「そんな無茶苦茶な……」
「それによ、お前言ったよな俺を守るって」
「……えへへ、まあね言ったようん。言った」
「じゃお前は誰が守るんだって話だよ。よくヒーロー物であるけどよ。ヒーローはみんなを守るけどみんなはヒーローを助けてくれるのか?」
「確かにそうだけどそれは、フィクションの話だし」
「お前は現実にいるだろうが、黙って俺に守らせろ」
「いやぁ、気持ちは嬉しいんですけどえへへ」
「おい、照れんな、そして勘違いするな。いいかこれはヒーローに対する市民の義務だからな!?誰か一人ヒーローを守るものがいないといけないっていう」
「……意味がわからないよ」
「とにかく!俺も戦うっていってんだ!意見反論その他色々受け付けねぇぞ!」
赤い道の下、黒い影がガタンガタンと揺れながら。凸凹コンビは帰っていく。
魔道士と不良のコンビは負の魔法から人々を守れるのか、がんばれ紗香!人々を悲しみから救うために!
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