上手くいかないゴールデンウイーク・伊勢志摩編

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上手くいかないゴールデンウイーク・伊勢志摩編

 バスは伊勢西I.Cで降りた。  もうすぐ着く。はしゃぎ過ぎた先輩達が、後15分と聞くと一斉に、体力温存のため寝始めた。  私は、起きてた。何の変哲もない道だったけど待ち遠しくて。  駐車場についたあとのみんなの行動は早かった。まずは隣の茶屋で休憩。 『赤福五十鈴川店』 建物は明治以来130年らしく昔の茶屋をそのまま残したような店内で、お座敷やちょっとした長椅子でお茶と赤福をいただく。  鈴川の風を感じとても落ち着ける場所。  ここでいただく赤福は特別格別なの。ふんわりとしたこし餡に口でとろける餅、餡と餅だけなのに何故こんなに美味しいのかいつ食べても不思議だよ。  普段騒がしい先輩達もここではさすがに大人しい。一息ついて部長が立ち上がった。 「では、みなさんここから一時間ほど自由行動にしたいと思います!一時間後、宇治橋の入り口集合でお願いします。」  るなちゃんが手を挙げた。 「宇治橋ってどこですか?」 「宇治橋というのはですね。参道口にある大きな大きな……」  その時だった。 私の手を健治くんがとったのは。 「ゆかさん行きましょ。」  逃げる様に早足な健治くんの手に引かれ、石畳の路を私は小走りで進んで行く。  昔の香りが漂う、深い木の色合いのお店や、瓦屋根に和を感じる長い塀を過ぎ。商店街全体が、歴史ある和の風格に染まった大通りが目の前に開けた。  小走りではあるが、病人の私には、かなり負担が大きかった……。 「ま、待ってよ。」  健治くんの手を振り解く様に止まった。少し息を調えないと……。 「ごめん。」  そう言って、私をちょっとした長椅子に誘導してくれた。 「ちょっと待っててお水買ってくる」  健治くんは人混みの中へと紛れて行く。  彼の背中を追いながら、周りの風景が私の脳裏に流れ混んできた。  そう去年は、ここをゆうくんと歩いた…… 私は思い出したままに歩き始めた……"ごめんなさい。先行きます。"って、置き手紙を残して。 *  *  *  *  *  中頃まで歩いて行くと右に入れる横丁が現れる。その入口には『これよりおかげ横丁』と書かれた大きな看板、そして、ちょっと犬っぽい石造りのでっかい招き猫が置かれている。これがおかげ横丁の入り口である。  私は、何かに誘われるように歩いていた。家族連れや友達、カップルで歩く人々にまみれ、私は思い出と歩いていた。  お店の立ち並ぶ通りを歩き、観客が囲う太鼓の沢山置いてあるやぐらを過ぎ、細目の路地へと入って行く。細目の路地とはいえ、行き交う人は多く、流石はおかげ横丁だと思う。 楽し気に歩く人々の中、思い出と共に歩く私は、気づかないうちに、もうすでに過去の人になってしまってはいないだろうか。過ぎ行く人に私は本当に見えているのだろうか?振り向いたら私の体が倒れてる……何てこと…… 私は不安になり少し、横目で振り向いた。そんなことはなかった。そんなことあるわけないよね。  休憩出来そうな屋根付の長椅子が沢山置いてある所があった。少し疲れたから休もう。  空は青々と清みわたり、路地をまだ少し肌寒い風が通り過ぎる。それがまた心地良い。  この路地の先を行くと、確か射的やヨーヨーつりなんかが並んでいたはず。 懐かしい、確かそこに何故か宝くじ屋があって、スクラッチを買ったら3000円当たった記憶が……。  ゆうくんと話したかったな……。不意に涙が出てきたから、うつむいた……。  その時だった。夢かと思った。けっこう奥まで来てたし。 「ゆか!探したよ」  彼はナイキの靴が好きで、黒で首が長く、マークが赤い物は彼のお気にいりだった。7分の少しゆったりとしたジーンズに、爽やかな色のシャツを風に泳がす。  目の前には、ゆうくんが立っていた。  瞳は、キラキラと輝き、いつもの爽やかな笑顔がそこにあった。  彼を瞳に写した瞬間から、お祭りの入り口にたった時の様な胸騒ぎが始まった。  走り回る子供達の笑い声から始まり、男女の和やかな話し声、遠くから胸を弾ませる力強い太鼓の音、爽やかな風すら笛の音色の様に聞こえた。 「ゆうくん、よくわかったね」  私は、自分でも良く解るほど笑顔がこぼれた。 「ゆか、泣いてた?跡ついてる。」 あ、しまった泣いてたよ。  目をぬぐった。 「あくびしてただけ」  ゆうくんに何だか違和感を感じる、何故だろうか? 「なんか、ここって凄く雰囲気いいよな。風流って言うのかな?」  何と言うかソワソワしているのかな?周りをよく見渡す。 「ゆうくん何だかオッサンみたい」  出たゆうくんの変顔だ。 でもやっぱりいつもと何か感じが違うな。 「こんなに凄いならもっと下調べするべきだったな。ゆかは下調べしたの?」 「うん、したよ」  そんなにおかげ横丁が気に入ったのかな?でもなんか焦ってる感じがする。と考えていたら急に頭を両のぐうの手でポカポカポカといった感じに叩き始めた。 「へ、どうしたの?」 少し、異様だったので素直に漏れた。 「いや、まどろっこしくて、ゆか、僕と一緒にまわって欲しいんだ。いいかな?」  そっか、照れてたのか。思わず笑った。 「いいよ。でもルナちゃんはいいの?」 「ああ、別に……ゆか何だか朝から疲れててろくに話せてなかったから一緒にまわりたいなあって」  何と言うかさらっと言うから予想外だった。まぁいいか。 「じゃあさ、行こうよ!あっちに射的あるんだ」 「いいね!行こう!」  余計なこと考えなくて良いっていいことだね。立ち上がった時の、髪を撫で下ろす風すら心地よかった。 *  *  *  *  *  射的ってさあ、目を見開いて打ってるのに玉が何処に飛んでるか見えないってどう言うこと? 「あ~た~ら~ない~」 「僕もだよ……」  しかし、隣の小学校低学年位の女の子はと言うと……。 「パパまた当たったよ~。楽勝だね。」  バンバン当ててる。拍手が巻き起こってる位。 それを見たゆうくんは楽しそう。 「ゆか、僕達の完敗だね」って笑ってる。  こういう感じって幸せ。本当に楽しいよ。さて次々、時間が迫ってる。 「ゆうくん!次さ、あれやろうよ!」  私が指差した先に彼は少し驚いた。 「な、何で宝くじ屋があるの?」  そう!宝くじ屋があるの。去年3000円当たった思い出のあるの所だった。もう一度当たったら良いな、なんて考えていた。ゆうくんもけっこう好きで、確か去年は……『ここまで来て宝くじ!?でもやろう!』とか言ってヤル気満々だったっけ。今回は、どうだろう? 「ゆうくん!やろ?」 「ここまで来て宝くじ……でも!やろう!」  去年とおんなじだった。なんか胸の当たりがくすぐったかった。そして、ギュッて苦しくなった。二度廻ってきた、かけがえのない時間に嬉しさと寂しさを感じたんだと思う。本当に本当に楽しい。 「ゆか?大丈夫か?」  おっと、また心配させてしまったよう。なるべく考えないようにしよ。 「いや~当たったら何に使おうかなって」 「早すぎ!どうする?二人で10枚連番買うか、一人それぞれ連番買うか?」  去年はというと一人それぞれ買っていた。でも今回は二人で買いたい。 「二人で一つでいいんじゃない?」 「よし!それで行こう!」  店員はニコニコのおばちゃん。縁起良さそう。 「あら、いいわね。デートかしら?ぜったい当てて美味しいもの食べてね。」  当たったらどうしよっか、そんな思いと共にカードを削り始めた……ダメだ全部ハズレ……。 「ゆか……」  どうしたの、もしや当たったの?と呼ばれた拍子に思い、ゆうくんの手元を見たが、そこには百円の当たりクジしかなかった。 「ゆうくんもダメだったかー」 「ゆか、一ヶ所削り忘れているよ。そのダブルチャンスのところ」  あ、本当だ!逆側にもう一ヶ所……。 削ってみると……何と当たった! 見たら5000円だって! 「ゆうくん当たっちゃった見て見て凄いよ!」 嬉しくて、ついついゆうくんの手を強く引っ張る私。 「イタタタ、いや本当だ凄いよ始めて当たった。」  でしょ?っと、その手をブンブン振り回す私。 「よろこび過ぎだから、イタタタ」 と言いつつ嬉しそうなゆうくん。  こんな時がずっと続けば良いのに……。 *  *  *  *  *  私達は、集合場所にやってきた。 人混みの向こうの方に木造の橋が見える。ざわざわとした話し声とじゃりじゃりという玉石の音の中みんなを探した。  そういえば、健治くん置いてきちゃったんだよな……大丈夫かな……気まずいかな……とりあえず謝ろう。  どうやら、私達が最後だったようで見慣れた一団が見えてきた。行きかう人々の間から遅いよ~って手を振っている。  健治くんは、真顔だ。怒っていなそうだけど……笑ってもいないし……真顔だ。 とりあえず話しかけよう。  あのう……と言いかけたとき、とても怒っているルナちゃんに気が付いた。 「祐司くん、突然いなくなっちゃうなんて酷いじゃない?」  えっ、ゆうくんも…… 面目無いと頭を下げるゆうくん。  私も健治くんに何か言うわないと……。  周りの人混みのせいでもある。考えれば考えるほど頭の中がざわざわと騒ぎ考えることを許さない。 「健治くん……ごめん……」  なんていいっていいかわからない…… 中途半端に低い目線で行きかう人々の足を見つめている。健治くんを見ないといけないのに。 「まったく、心配しましたよ。あんなに息を切らしていたのにいなくなっちゃうから。」  頭に降り注ぐ健治くんの声は優しかった。 「でもまあ、そのおかげで巡り合えたみたいですね。俺はよかったと思ったとおもいましたよ。」  私は、顔を上げた。健治くんの表情は笑っているけど、どこか寂しそうにも見えた。ごめんね。  彼は、言い終えるとゆうくんの方へと歩いて行った。  人混みと会話の草原を突き進むように。ゆう君はと言うと、まだルナちゃんから、あそこ行きましょ?ここ行きましょ?みたいな事を言うわれていた。  健治くん、ゆうくんに何を……。  ルナちゃんを挟み、二人は対峙した。ルナちゃんも驚いてゆっくりと振り向いた。しっかりと、ゆうくんを見つめる健治くん。ゆうくんもまた、健治くんを見つめた。  周りは賑わっているのに、ここだけが時が止まってしまったかのように……。  突然、健治くんはルナちゃんの手をとった。 「一緒に行こう」 「え。」  突然のことに驚いたのか、ルナちゃんはそのまま手を引かれ彼とともに橋の向こう側へと消えていいた。  しばし、茫然とした。  涼子先輩や吉田先輩は、ひゅ~、とか、ふう~とかやたらと楽しそうなのを除いては。ここで、部長が注目というように手を挙げた。 「まあ、携帯もあるしあの二人とは後で合流すれば大丈夫でしょう。さあ先に進みましょう。」  私の前に手が差し伸べられた。ゆうくんだった。 「僕たちも行こう。」 「うん」と、私は強く彼の手をつかんだ。 彼と歩く……最後に歩く伊勢神宮。 柔らかい色、質感の大きな木造の橋『宇治橋』は、足音を軽快な音にして祝福してくれる。 私達は手を繋ぎ、順路を進む。 久しぶりに感じる。しっかりと握られた手の包容感、神秘的な魅力に満ちた、太く背の高い木々に囲まれた参道。 私のポカポカと暖まった胸の内を、周りの雰囲気が涼しげに包み込み、とても心地良い。 一足一足、ジャリジャリと音を立てる玉砂利も何だか楽しげな気がした。 私は、神宮を清清しい気持ちで参拝した。 *  *  *  *  * 私達は一通り参拝を終え宇治橋の入口まで戻ってきた。 姿のない健治くんとるなちゃんは大丈夫なのだろうか?と言う私の疑問を口にしたのは涼子先輩だった。 「部長、あの二人の姿が見えないけど大丈夫なの?」 「それなら大丈夫、あの二人は最初の茶屋にいるらしいから。」 宇治橋を後にし、お祓い町を戻る途中おかげ横丁の入口の招き猫で集合写真が撮りたいと涼子先輩が持ちかけた。 健治くんとるなちゃんいないけど…… 「もう一回、茶屋で撮ればいいべ!」 と言うことだ。 涼子先輩はそこら辺にいたカップルに話しかけてカメラを渡した。その行動力流石。 「撮りますよ~」 ゆうくんと並んでまた思いでが増えた。 * * * * * 最初の茶屋に二人の姿はあった。健治くんがお茶をすすり、るなちゃんがバクバクと赤福を食べているのが見える。 二人と合流しやはりここでも「記念写真とりたいよ~」って涼子先輩が切り出してくれた。はーいとハモリ、手を挙げたのは私とるなちゃん、顔を見合わせ二人でにひひって笑う。 またかー、みたいな吉田先輩はいたけど。 どうして男子って写真苦手なんだろうね。 そんなことを考えていると……「ゆか?」ってゆうくんに呼ばれた。 「一緒に移ろうよ」 照れくさそうな彼は少し可愛かった。 記念撮影が終わり、部長が「注目して~」と号令をかける。 「これから今日の宿泊先に向かいます!」 バスの席はまた、るなちゃんにゆうくんの隣を取られてしまった。 健治くんも、 「良いんですか?僕の隣で」 って言ってるけど、伊勢神宮楽しかったからいいや。 「みんなでの旅行だしいいんだ」 「後で後悔しないでくださいよ」 こうして、人生最後の伊勢神宮を後にした。 *  *  *  *  *  バスは山と海の間を走る。この道はパールロードと言うらしい。 パールって言うと真珠だけど、どう見てもホタテではなく、カキ詰め放題のお店が多い!まあ、面白いけどね。店先のおばあちゃん達がバスを見ては手を振ってるんだもん。  左には優大な海、右手は山でこれといって無いけれど、のんびりとドライブするには良い道。  志摩に入ったくらいでバスは脇道にそれた、デコボコとした細い道を下り、小さいトンネルをくぐり抜け、視界が開けた。  私達が出たのは町の小高い丘の上、向こうにはコンクリートでかためられた小さな湾が見え、船が並び港を形成していた。といっても、凄く小さな町だけど。  バスは、右へ左へと道路を下り、メイン通りに出たと思ったら、タバコ屋の角を曲がってまた登り始めた。津波対策の施された、基礎のコンクリートの背が高い、家々の間を縫うように進むと、崖の上にたたずむ民宿・福若が見えた。  レトロなバスを揺らしみんなで降りると。 全身を包む様な潮風がお出迎えする。着いたーと、みんな伸びていたら、福若からニコニコとした老夫婦が現れたら。 「よくきたね。さあさあお入りゆっくりしていってね」 「「お世話になります」」  小さいさな港町を見下ろしつつ。今日一日が、ようやく一段落つこうとしていた。 *  *  *  *  *  和風の広い玄関を更に大きくした玄関で靴を脱ぎ、まずは、私達女子が部屋へと案内された。  玄関でもうそうだったけど、なかなか古くて、壁は土壁だし、ちょっと薄暗いし、夜は怖そうな雰囲気。  そんなことを思っているうちに、おばあさんが部屋のドアノブに手をかけた。 「ここですよう」  中は小綺麗な広い和室が広がっていた。畳の間で四角いちゃぶ台。窓際は板間になっていて1人用のソファーが三つほど用意され、お風呂上がりにくつろぐには最適だ。 「では、お食事方は7時となっております。お時間になりましたら大部屋の方へお越しください。お風呂は沸いておりますのでいつでもお入り下さい。」と言っておばあさんはドアを閉めた。  第一声は、涼子先輩の「風呂行こうー」だった。 「良いですね!」  るなちゃんはどうだろうか。 「私も賛成です。この旅館ってかなり古いですし見晴らし良いですよね、もしかして露天風呂とかあるんですか?」  あはっ、そこなんだな問題は!私も去年は同じ期待をしたのよ。まあ涼子先輩の解説を聞きましょう。 「ここは旅館じゃなくって民宿だから、そう言うのは無いのよ。お風呂は結構……普通の内風呂かな」 「あ、そうなんですか。ちょっと残念ですが、行きますか。」 *  *  *  *  * るなちゃんは下着もかわいいなあ。ピンクのレースに羽が付いてて可愛い。体型はおしりもほどよく、お腹も出てはいないし、胸もB位か、総合的に私と同じくらいかな……。 「ゆかちゃんじろじろ見すぎよ!」   るなちゃんにしかられてしまった。 「だって下着可愛いんだもん!」  その時だった、涼子先輩の白いワイシャツがはらりと落ちた。  涼子先輩の普段着は結構ボーイッシュな感じだ、だからいつもスタイリッシュな感じなのだが……。  ジーパンからこぼれたオシリは、小ぶりでぷりっとつき上がり、スラットした細い美脚が伸びる。  お腹はキュッと引き締まり、両サイドはくびれの曲線、正面にはうっすらと縦に伸びる中心線、その上からたわわに実ったCかDもあるおっぱいがあった。  肩幅も小ぶりで、二の腕も細く、しゅっと長い手、これはもう……。 「るなちゃん、涼子先輩の裸ってたまんなくない?」 「わかるー!たまんない……」 「なんだお前ら、死んだおっさんのをしているぞ!」  そんなことは百も承知! 「いただきまーす」  女子風呂は笑い声が絶えなかった。 *  *  *  *  *  さあ、待ちに待った夕飯のお時間がやって参りました!ここの料理がすごいんだ!  私達、女子一行は大部屋の扉へとやって来ていた。  重いけど軽い音のドアノブを回し、開いたその先には、インパクトの強い、今さっき捌いたであろう鯛のお頭付きのお刺身が三匹一列になっている光景が、まず目に飛び込んできた。  そして、その周りを踊るかのように、六匹の伊勢海老が、これもまた捌いたばかりなのであろう、艶々と光沢のあるもの達が配置されていた。  るなちゃんもこれには驚いたようだ。 「涼子先輩見てください!この伊勢海老まだ少し生きてますよ。ちょっとキモイけど早く食べたい……この伊勢海老逃げませんか?大丈夫ですか?」と、テンション高い。  後はねえ、一人一つあわびの踊り焼きがパクパクと歌ってて、生牡蠣の刺身が宝石の様に並べられていて、大きめな汁お椀が一つ。  あの大きめな汁お椀がまた宝箱でね、中には海鮮味噌鍋をよそい分けたものが入ってるの、鍋には大切な白菜とかと一緒に、伊勢海老と、牡蠣がごろごろ五個位、もう~たまりません。  食卓の解説を先にしちゃいましたけど、実はもう男子諸君は先に座って待ってました。   吉田先輩なんて待ちきれなくて伊勢海老と踊ってるよ。 「るなちゃん早く座って座って!伊勢海老逃げちゃうから」 「そうですね。」なんて言って私達も席につく。 「部長みんなきたよ!」 「そうだね!じゃあいただこうか。頂きます!」 「「頂きます!」」   いや本当に食いしん坊万歳。 *  *  *  *  *  宴会も終りみんな部屋に戻ったあと、私は夜風に当たりたくって民宿の玄関を出た。  すると一人佇む、ゆうくんの姿があった。 「あれ、ゆか、どうしたの?」 「夜風に当たりたくって、ゆうくんこそどうしたの?」  潮の香りがする夜風は、肌を洗ってくれるように通り過ぎていくものだから、とても清清しい気分をつれてくる。 「僕も、夜風に当たりたくって」  夜風達は、幸せも連れてきてくれたようだ。風の音に混じって低音で響くゆうくんの声が、なんだか心地よい。 「ここは、海と港が見えて良い場所だね。今日はゆかが下調べしてくれてたお陰で凄く楽しかった。」  楽しかったのは私の方……。 「夏休みは、北海道だっけ?」 「うん、そうだよ」 「今度は僕が調べておくからだから、一緒に回ってくれないか?」  うれしい、心からうれしい、涙でそうでヤバイ。ちょっとしゃがんで笑うふりして涙拭くしかない。 「いや、そんなに笑わなくとも……」 「だって、もう調べちゃったんだもん」  去年も行ったからね。 「そんな~」  また、変顔してる。 「わかったじゃあ今度のプランは全部ゆうくんに任せる!」  涙は拭き終わったからまんべんの笑みで答えた。 「よし!わかった!下調べ出来てるってことは場所は知ってるの?」 「小樽だよ」  小樽、思い出しただけで良い場所だった。 石畳で舗装された道路は人力車が行き交い。街の街灯はランプで、建物はレンガ造り、まるで明治時代にタイムスリップしたかのような町並みだった記憶がある。 「わかった!楽しみにしてて!」 「楽しみにしてるね!」  本当にたのしみだなあ。 *  *  *  *  *  カーテンの隙間を探しあて、登ってきた太陽の光が差し込んできた朝。  私は一番に目が覚めた。いや、でも朝ごはんまで後、40分しかない。みんな起こさないと。支度が終んない。  涼子先輩なんて凄い格好で寝てるよ。浴衣なんてはだけちゃって、白くて細くて柔らかそうな太ももが露になっちゃってて、紫のパンツがちらっと見えてて、上なんてもうブラひもが肩から落ちちゃってておっぱいがこぼれようとしていてもう……興奮!これはるなちゃんと起こそう。後に残しておこう。 るなちゃんはと言う、いやぁ頭ぐちゃぐちゃだよ、どっかの国のお姫様の寝起きの頭みたいになってるよ。目は眼鏡外した時の昔のアニメみたいになってるし、これは早く起こして準備させないと。 「るなちゃん!起きてよ、るなちゃん!涼子先輩がたまらない格好で寝てるよ」  んあ、っと起き上がったるなちゃんは涼子先輩を見てすぐ目を昔のアニメから、死んだおっさんの目に昇華させた。  おおおおおおっと、もはやゾンビだ。 「ゆかちゃんダイブしてもいいかな」 「私もやりたいよ」 「じゃあ私は左乳をもらうからゆかちゃんは右乳で良い?太もももそれぞれ頂きましょう。」 「良いよ!もう頂きましょう」  二人のゾンビは息を切らして勢いをつけた。 「頂きまーす」 「ギャー」  朝から涼子先輩の悲鳴が響いた。 *  *  *  *  *  さあ、朝食の時間ですよ。  私達は支度を終え、昨日の大広間に、おはよーって言いながら入って行った。  疲れきった涼子先輩を見て、吉田先輩が「どうした?そんなに疲れて」って聞いているが、「バイオハザードの夢を見た」って返していた。  今日の朝食はと、蓋のしてあるご飯茶碗と、縦半分になった伊勢海老ちゃんがお風呂しているお味噌汁に、ちょっとしたグラタンに、お漬け物、良い朝食だね。  隣のるなちゃんもお茶碗の蓋を開けて「見て見てゆかちゃん!具沢山栗ご飯だよ。」ってはしゃいでいる。  私も蓋開けてみよう……うん?これは……。確かに、白とオレンジがかった黄色がハッキリと色分けされて散りばめられていて、一粒一粒がしっかりと形をなしていて艶々としているが、これは栗ではない……ウニだよ、ウニご飯だよ!  一般の回転寿司なんかで見るやつはとろけていて、もっと茶色っぽいけど、これは艶やかでプルプルとしていてお花の様に色鮮やか。  そんなことを考えているうちに「「頂きまーす」」って全員でご挨拶。  まずは、ウニご飯を一口、舌の上でプリンと弾け濃厚な甘みが米と絡み合い、程よい塩味と調和する。  全然生臭くない、それどころか清清しい香りがする。これがまさに取れたての磯の香りなのだろう。もう絶品。  このグラタンは?はい、みーつけた伊勢海老の半身ちゃん!  伊勢海老ちゃんの出しがきいたお味噌汁も格別。締めは手作りのお漬け物をパリポリ。 良い朝ごはんでした。 *  *  *  *  *  私一行は午前中はパールロードを南下して鳥羽展望台へとやって来た。  ここは山の上にあるためかなり良い景色が楽しめる。  今日は天気がいいからあれも見えるはず……見えた!富士山!  海は水平線、地球って本当に丸いんだなあって思う。  ゆうくんも私の隣に来て海を眺めた。 「地球って本当に丸いんだなあ。」  私の思ったこと言ったよ。ちょっとウケた。 「そうだ、ゆか、伊勢で当てた五千円で何か買おうよ。なにか一つは旅の思い出に残るようなのが欲しいなって思うんだけど。」 「良いね。私もそう思う。最後のナガシマスパーランドに着いてからでも良いんじゃないかな?」 「そうか、海見てたら、もう帰りかって勘違いしてたよ!まだメインがあったね!」  ナガシマスパーランドかあ、ジェットコースターのイメージだなぁ。昔は死ぬほど好きだったけど……今は体に負担かかるからキツいかな……ゆうくんが乗るって言ったら無理しちゃおうかな……。 「ゆかは、ジェットコースター大丈夫だっけ?」  やっぱりそう来るよね……。 「ゆうくんは?」 「え、僕……、実は、苦手なんだよね。」  照れくさそうに笑うゆうくん。  ごめんね。言うわせちゃって、知ってはいたんだ。  去年は、私が引っ張って強がりを言うゆうくんを乗せて、一緒に楽しんだんだけど、それもできなくなっちゃったね。 「良かった、私も実は苦手なんだよね。一緒に落ち着いたの乗るとか買い物して廻ろうよ?」 「オッケー!」  彼の爽やかな笑顔。彼の笑顔は本当に私の心を惹き付けると言うか、なんと言うか、キュッーとつままれると言うか。  そんな時、もう行くぞー!っと言う声が聞こえて来た。 「さあ、行こうか」 「うん」  私は彼に惹かれる様に鳥羽展望台を後にした。
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