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鎖骨と鎖骨の間のくぼんだところ、頚窩と呼ばれる部分に、翡翠色の蛾を宛がう。そのまま軽く抑えると、蛾が柔肌に吸い込まれ、さざ波をたてながら溶け込んでいった。さながら人形自身が、最後のピースが嵌め込まれるのを欲していたかのように。
本当の最後のピースは私自身。私にはこの世界が眩しすぎるから。私たちがつくりあげたこの少女の闇のなかに、私の意識を、魂をゆだねて。
人形、起動。
淡々と発したつもりの言葉は震えている。
彼女の細い左腕が、私に向けてのばされる。その手のひらと、私の手のひらがあわされる。ほの白い光が、絡み合った指と指の隙間からかすかに漏れ出して、胸元の薔薇を密やかに照らした。
薄闇のなかで、翡翠色の眼が開かれる。
瞳のなかで、ぴくり、あの翅が瞬いた――そんな気が一瞬。
それが、私が私の眼で見た最後の景色。
冷たい感触が唇に。氷点下の灼熱が私を一気に貫いて、後頭部に鋭い痛み――〈全能〉の焼き切れる悲鳴――を感じたあと、私たちは安らかな宵闇に包まれた。
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