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暑い暑い夏の午後。蝶を汗ばんだ手のひらに乗せて家路を急ぐ。速足から駆け足へ。
私は自分の部屋に閉じこもる。カーテンがきっちりと閉められた部屋の空気は重い。息を整えながら、手の平のそれを私は見つめる。
――〈全能〉起動。
音にもならない呟きに、私の延髄に埋め込まれた〈全能〉が反応する。指先から放たれた五本のほの白い輝きが、細かな光の糸になって蝶を撫でるように包む。数秒の後、蝶のすぐ上に、青い「該当なし」の文字が浮かび上がった。
全てを知るそれが知らないもの。
蛾。その蝶の死骸は、蛾と呼ばれていた。そのことを私は知っている。
視界の端を、コバルトブルーの半透明なウィンドウが埋め尽くしていく。〈全能〉があらゆる検索結果を必死に表示しているのだ。しかしどのウィンドウにも、「該当なし」が表示されていた。
これしかない。これなら私は。
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