少女人形異譚記

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 ――私たちはずっと一緒だよね。  ――うん。例え、世界が別たれても。  ――きっとそれが、私の幸せ。  ――君は願ったものね。  ――例え、それが幻だとしても。  世界最期の朝焼けのなかで、私たちは切に祈った。  夜は淘汰された。闇は、影は無くなった。そうして昼だけになってしまった、この只々明るいだけの世界からの脱出。〈全能〉に支配された、この只々綺麗なだけの、息苦しい人工の理想郷からの脱出。  完全な世界。恒久的な平穏の裡に閉ざされた、全き一。  蛾なんてあるはずが無いのだ。あれは穢れた夜の生き物なのだから。この世界には必要無い。総ては理想の裡に定められる。〈全能〉の下で。  一点の翳すら許さないこの人形は、この蛾を――穢れを内包して初めてひとつの世界として完成して、眼を覚ます。  昼と夜の間。何処でもない無い何処か。
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