クラブ ビオランテ

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「まあ、そんなところでしょうかね。この時間帯でも、この店は空いていることが多いのですよ。客が多いと、どうしてもサービスが手薄になりますよね」  なんだと?この時間帯に空いているのは単に客が来ないだけだろう。物も言いようだ。この社長は、あのビオランテという店がどんな処なのか知らない。飯田課長の悪趣味に付き合わせられて誠に気の毒なことだと思う。  僕は二人の後から付いていく。エレベーターに乗り、三階で降りると目の前に"クラブ ビオランテ"の扉が待っている。赤と黒のどぎつくけばけばしい複雑な幾何学模様の扉。店の中はイスラム宮殿風の官能的なインテリアが所狭しと蒸し返している。アラビアンナイトに出て来る王様の(ねや)ではあるまいし、せめて気品のある王様の彫像でも置いてあるのら、まだしも尊崇の一念も沸いても来ようが、そんなわけはないし、ああ、どうかなりそうだ。誰か身代わりになってくれないだろうか。  飯田課長がまるで殿さま気取りで威勢よく扉を開ける。すると待っていましたとばかりに、あの作ったような黄色い声が飛んでくるのだ。 「あ~ら、飯田課長さん、首を長くて待っていましたわ。あら、お客様ですか、いらっしゃいませ。ようこそ、クラブ ビオランテにお越しになられ、有難うございます。マリー、どこにいるの、マァリィ~~、お客さんよ、ご案内して…、お三人さんよ」  僕は知っている。この店の店員はピアニスト一人を除き、みんな男だということを。とはいえ、そのピアニストさえ怪しいのだ。あの身体つきからして女が男装していることも大いに考えられるからだ。彼らはこぞって皮下脂肪を肥え太らせ、肉感的な魅力を厚化粧で色増しにして、その肢体を持て余しているように見える。こんな得体の知れない店だから、どう彼らと付き合えばよいのか、僕にはさっぱりわからないのだ。
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