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「飯田課長さま、ボトルチャージしてあるわよ。それにします?」
「うん、それでOK。新しいボトルも用意しておいて…」
「それでは、社長、乾杯させて頂きます。みなさん宜しいですか。乾杯!今日は有難うございました。社長のお口添えで、うちの会社も助かりました。今夜は思い切りハメを外してください」
「そうか、よろしく頼むよ。飯田君…」
うちの会社が助かっただと?よく言う。一体どんな大口注文を取ったというのだ。中小企業が顧客相手の営業第三課ではあり得えないことだ。
「ナカノちゃん、ちょっと来て、…」
カトリーヌという太った年増のホステスが僕の腕を引っ張る。このベテランホステスは実質的にこの店を切り盛りしてる。誰も逆らう者などいない。店の外にあるトイレ脇に連れて行くのか。
「なんですか?突然・・・・」
「今日も支払いはツケなのかしらねえ?言いたくないけど、飯田課長さんの支払い、ずいぶん溜まっているのよ。正直言って困っているのよ。・・・・これ、溜まった請求書、飯田課長さんからあなたに渡すように言われましたわ。総務の方で支払うことになったんですって。そういうことなので、よろしくお願いしま~す」
「支払いが溜まっているということですか。どういうことだろう。総務で処理するなんて、僕はなんにも聞いていない。僕に請求書を渡されても困るなあ」
「あなた、総務なんでしょう。なんでも出来る部署なんでしょう。そもそも、この店に総務課の者が来るなんて、疑問に思ったことはないの?こういうことを上手くやってもらうために、飯田課長はあなたをこの店に連れて来ているのだと思うわ。そろそろ気付くべきね。とにかく、会社に帰ったら上司にでも相談して、この未払いを清算するよう手続きを取ってください。こちらは、あなたの会社のどの部署が払おうが関係ないのだから。それに、今夜の請求書もあなたに郵送しますから、……なによ、マリー、お客さんをほっといたら駄目じゃない。不機嫌そうな顔をして、なにか言いたいことでもあるの?」
「ちょっとさあ、あのお客、社長というけど、どこか染み垂れた感じしない?わたし、ちよっと抵抗があるわ。零細企業の名ばかりの社長かもよ。カトリーヌ、あなたに任せるわ」
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