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「社長、弊社の工場から緊急の連絡が入りました。これから会社に戻りますので、あとは、総務のこの中野という者に、なんなりと言いつけてやってください。中野君、社長さまのお車の手配は大丈夫ですね?後のことは頼みますよ。いいですね!・・・・社長!今度はゴルフでもどうですか、派手にやりましょうや。今日は本当に有難うございました。それでは、お先に失礼致します…」
横柄で、身勝手で、要領がよすぎる。もうお手上げだ。営業部の者はそんなものなのか?上司に言いつけることも憚られる。
「飯田課長さん、こんなに夜遅くに会社に戻られるのですか、気を付けてくだいよ。あなたが倒れたたら、会社も倒れるんじゃありませかな。ゴルフの件は了解しました。今日はいい店を紹介してくれて有難う。じゃ、バイバイな」
今夜の支払いも総務が負担するというのか。だがな、少なくとも僕自身には費用の発生はないからな。これからも、飯田課長は僕をこの店に連れて来るのだろうか。あんた達の夜に化体した昼間の嘘を見抜くために、なぜこんなにも僕はあんた達と付き合わなくてはならないのだ。
「マノンちゃん、飯田課長さんをお見送りして…。社長さま、わたし一目見たときから惚れましたわ。ねえ、フランソァ、ブランディー持って来てよ」
惚れた?はて?社長という肩書に惚れたんだろう?
「ブランディーか?ナカノちゃん、君が注文したのか?」
「・・・・・・・・・・・・」
どう答えていいのだ。とうとう社長まで僕のことをナカノちゃんと言い始めた。最悪だ。
「いいえ、いいえ、わたしの奢りですわ。好きになったお客様には、つい、そうしたくなっちゃって・・・・」
ホステスからの奢りだと?新手のサービスか?サービスも進化しているんだ。
「私への奢りか?それはいかんな。男が立たん。私に奢らせてくれんとな。コニャックにしてくれ」
コニャックか?さすが社長、強く立ってくれ。
「社長さまって、随分太っ腹なお方だこと、惚れなおしましたわ。フランソァ、コニャックにして。社長さま、カラオケなんか、いかがですか?」
まさか、このコニャック代も総務が負担するというのか。そうだったら、堪ったもんじゃない。国産のプランデーで何が悪い。
「カラオケか?ちょっと音痴でしてな。ナカノちゃん、私の代わりに唄ってくれんか?」
「はあ?・・・・私でよろしければ」
さっそく、そう来たか。こんなことで慌ててなるものか。これも想定の範囲内だ。でもだ、上司にこのような状況を一度見てもらいたいものだと思う。僕はこんなに白けているのに、上司のあんた達は今頃高いびきで寝ているのだ。チクショ~!あっ、なんということだ。小梅太夫みたいな着物姿の厚化粧の客が店に入って来た。よぼよぼの爺さんの手を引いている。ここはそういう店なのだ。
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