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「お客様、ナカノちゃんと呼んでよろしいのかしら、わたし一週間前にこの店に来たフランソァと申します。今後ともよろしくお願いします。さっそくですが、デュエットで唄いましょうか。東京ナイトクラブでもいかがですか?…」
なんで、そんな古い歌を唄わなくちゃならないんだよ。そうか、社長の年齢に合わせているからか、仕方ないのか。
「はい、そうしましょうようか」
「ナカノちゃん、これも総務の仕事だす。こんな仕事、他の部署の誰がやりますかいな。言ってみれば、あんたみたいな真面目な人がこの世界に居るということで、辛うじてこの世界は崩壊するのを免れているのですよ。言ってみれば、あなたは氾濫寸前の川の中の屈強な堤防みたいな存在ですかな。あなたが居なければ、もう、この世界は堕落のどん底ですわ。社長の私が言うだから間違いない」
「ナカノちゃんって、そんなに真面目な方なの。緊張していらっしゃるの?あら、あなた、鼻の横に黒いものがついている。それ鼻糞?」
「いいえ、黒子です」
「そうなの。可愛い顔だわね。わたし好みの顔だわ。一晩付き合いましょうか」
「えっ、…」
「冗談、冗談ですよ」
「社長さま、このマリーと踊らない?ねえ、リードしてよ」
「踊ろうか、久しぶりだな。それでは、ナカノちゃん、唄を頼むよ。期待しているからね」
ああ、もう駄目だ。社長の口ぶりに変化がおこっている。やや黄色い声に変わっている。遂に、この店に汚染されてしまったのか。
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